「遅咲きの逸材」ENEOSの藤井聖投手(撮影/藤岡雅樹)
かつて社会人野球が隆盛の頃、全国で200を越える企業チームが活動していた時代には、こうしたいわゆる“社会人デビュー”は珍しくなかった。
社会人と大学はよく練習試合が組まれている。大学でレギュラーやエース級でなくても、たまたま練習試合に起用されて活躍し、見いだされて社会人に採用され、そこで急成長しプロ入りを果たす。そんな選手がよくいた。だが近年はチーム数の減少により社会人野球も狭き門となり、どこのチームも、実績を残した“出来上がった”選手しか採用する余裕がない。
そのため、藤井のようにチャンスがあれば伸びる可能性を持っていても、受け入れてくれるチームがないために諦めざるを得ない選手も多くなっている。そんな時代に、藤井の急成長は、社会人野球のリクルートのあり方を見直す機会にもなるだろう。
各球団が上位指名の候補としてピックアップする十数名のリストの中に、藤井の名前はもれなく入っている。左腕はどこの球団もほしい。まして、先発でもリリーフでも使い勝手が良いとなれば尚更だ。
ひょっとすると、「1位」の可能性もありそうだ。さすがに一発目の入札は考えにくいが、競合してクジに外れたチームが再びハズレ1位でも指名が重なり、そこでも外れた場合、“ハズレハズレ1位”の選択を迫られる。
1位指名が9人10人と確定していく中で、リストに残った選手を天秤に掛けた時、「即戦力左腕」の優先度は高い。とくにウェーバーで指名順位が後ろになる球団は、そこで見送ってしまうと2位まで残っているかは微妙なだけに、「1位で獲ってしまえ」という判断になる。
大学時代に見上げていた3人と、2年遅れで、初めて同じ高みに登っていく藤井。もし東洋大のような層の厚いチームにいなければ、もっと早く開花することが出来たのでは? 取材でそんな質問を受けた藤井は、こう答えたという。
「彼らと同じチームにいたからこそ、ここまで来られたと思います。“負けたくない”という気持ちでやって来ましたから」