国内

「小学校のあだ名禁止」考 私は「キズ」と呼ばれて嬉しかった

あだ名=いじめではない

 リスクをコントロールすることは重要だが、線引きは難しいもの。それが子供となれば尚更だ。コラムニストのオバタカズユキ氏が考察した。

 * * *
 先日、ネット上で「あだ名禁止」という言葉がやたらと目についたので、なんだろうとチェックしてみたら、TBS系列の朝のワイドショー『グッとラック!』が、そのお題の特集を放送していたからだった。動画を確認すると、ナレーターがこう言っていた。

「今ですね、クラスメイトをあだ名で呼ぶことを禁止する小学校が増えています。そのわけは、イジメにつながるからだと言います」

 なんでも、2013年に「いじめ防止対策推進法」が公布され、それまで以上にイジメに対する監視・防止の義務が厳しく課されたことにより、あだ名禁止の決まりを作る学校が全国的に広がっている傾向があるそうだ。

 番組では、その一例として茨城県の小学校を紹介していた。この学校はあだ名禁止のみならず、名前のさん付けも徹底している。結果、教室内の授業中だけでなく、昼休みに校庭でサッカーに興じる子供たちまで、「あらたさん、あっち!行って!あらたさん、ゴールゴール、イエーィ!」という調子。なかなかシュールである。

 この小学校の教頭はこう話していた。

「あだ名で呼び合うことによって差別化が生まれてスクールカーストにつながってしまう。そうするとイジメが発生しやすい状況を作ってしまいます」
「さん付けで呼び合うことで子供たちの関係が対等になりますので、お互いを尊重し合う関係になります。ですので、開校から大きなイジメというものが発生したことが1件もありません」

 あだ名→スクールカースト→イジメという三段論法。イジメって、そういう簡単な仕組みで発生するものか。さん付けで呼び合えばお互いを尊重し合うようになるほど、人間関係って単純なものだろうか?

 小学校は実名で紹介されていたのだが、話に納得できない私はどうしても批判的になってしまうので、ここでは伏せておく。ただ、この小学校についてちょっと調べてみたところ、開校したのは2012年4月。できて10年も経っていない、とても若い学校だ。ならば、まだ大きなイジメが1件も発生していなくて当然ともいえるだろう。

 さらにこの小学校は、全国の私立中高一貫校入学試験への受験希望者に対して受験のための進学準備教育も提供している、といった、エリート養成型の私立校であったりもする。今どきの小学校を代表させる一例としては、いささか特殊にすぎる。

 それでも、番組が特殊な一例を持ち出して、実際には起きていないあだ名禁止の増加をでっち上げた、というわけではないだろう。番組では調査や統計などを使った説明はなかったものの(筆者も探してみたが、見当たらなかった)、ネットの反応でそうした学校が実在するという声がたくさん見られたからである。自分の通っていた学校もそうだった、とツイートする中学生や高校生もけっこういた。

 そして、小学校でのあだ名禁止に対しては、違和感や反対意見を表している人が大半であった。たとえば、以下のような戸惑いだ。

〈あだ名禁止でさん付けの小学生てなかなかだね……友達と仲良くなるのに時間かかりそう〉
〈学校のあだ名禁止問題。そのうち全て禁止になって、コミュ障人間が多発とかなりかねない〉
〈あだ名禁止ってなんかディストピア感がましてきてるな。そのうちジェンダーに配慮して呼び捨て、呼び捨てだと同名わかりずれえから番号とか言い出す奴出てきそう〉

 あだ名には、人と人を近づけ親しい関係に発展させるためのコミュニケーションツールの側面がある。たしかに、イジメにつながるような、というか、その呼び方自体がイジメそのものであるあだ名も子供たちは作り出す。『グッとラック!』では、中川翔子を取材、彼女が中学時代に体調が悪くて吐いてしまって以来、「ゲロマシーン」と呼ばれ始め、その辛さから不登校状態になった過去を語っていた。これは紛れもない、イジメだ。

 だが、その中川翔子も、あだ名禁止の流れには「反対。ちょっと極端かなと思っちゃいます」とし、「あだ名が悪いとかそういうことではないんじゃないかなと思います。攻撃する人物がいるっていう状況、そこにちゃんと先生が、もうちょっと個別に向き合えないのかな。あだ名=イジメではないですからね」と話していた。

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン