大人の対応こそが問われる

 そう、あだ名=イジメではない。問題は、イジメの道具としてあだ名をつかう人間の存在にあるのであって、そのあだ名に人を攻撃するような気配があったならば、それがイジメとして使われていないかどうか、教師をはじめとした大人やまわりの子供たちがいち早く気づき、イジメだったら素早く介入する、そうした体制を取ることが肝心なのだ。

 こんなツイートもあった。

〈#あだ名禁止 #さん付け は、 「子供を守るため」というより、「先生を守るため」なのでは? 万一、イジメ自殺が学校で起きた場合、先生はイジメと分かるような「あだ名」がなかったか責任追求される。あだ名って、いじめられてるかどうかの大きい指標だし〉

 指標でもあるあだ名を禁止してしまったら、イジメはより地下に潜り、発見しづらくなるともいえる。ある子がつけられたあだ名を嫌がっていたら、その気持ちを他の子らに理解させ、人の嫌がることはやってはいけないという当たり前のモラルを具体的に身につけさせる。それも学校や教師の重要な仕事ではないか。なのに、あだ名禁止で表面的に問題をないものにしてしまったら、それは強く批判的に言うなら、学校教育の放棄に相当する愚行ではないかと私は思う。

ブタゴリラ、ゴリライモ、ブー太郎

 あだ名はイジメと親和性があるが、本来は、もっと温かいものだ。

 私は、小学校3年生のときにはじめてあだ名をつけられたのだが、それは「キズ」というものだった。遊んでいる最中に家の壁の釘で目の下を割いてしまい、4針ほどの縫い傷がけっこう目立つ形で残った。それを指して「キズ」である。

 ずいぶん残酷なあだ名をつけられたと思われるかもしれないが、私はそう呼ばれるようになって嬉しかった。キズ自体がちょっとブラックジャックみたいでカッコいいかも、といういかにも男子な受け止め方を勝手にしていたこともあるが、なによりもそれまで「オバタ」と苗字でしか呼ばれたことがなかったのが、あだ名で呼ばれるようになり、「あだ名のある人たちの仲間に入れてもらえた」と感じられて嬉しかったのだ。

 あだ名は親近感の指標でもある。だから、アメリカ人などは、初対面の相手に対し、「Call me Mike!」といった具合に、自分からニックネームの使用を要求してくる。その習慣のない日本人の私からしたらやや気恥ずかしいのだが、まあ、郷に入っては郷に従えで「Call me Kazu!」と言ってみると、これが意外と自分の胸襟を開く効果があって、そこからのコミュニケーションがずっと楽しくなったりする。

 親近感の効果は、日本のマンガやアニメがずっと昔から意識的に活用してきたものでもある。ぱっと思い浮かぶだけでも、『キテレツ大百科』の「ブタゴリラ」、『ど根性ガエル』の「ゴリライモ」、『ちびまる子ちゃん』の「ブー太郎」、『はじめの一歩』の「ゲロ道」……と、酷いあだ名がずらずら出てくるが、それらはイジメで使われているわけではない。子供世界の親しさの表現なのである。ちなみに、ブタゴリラは誰か友達につけられたあだ名ではない。ブタゴリラは、熊田薫という名前が女の子のようで嫌だから、自分で周りにそう呼ばせている。

 ポリティカル・コレクトネス的にいかがかと思われるものであっても、使い方、使われ方で、あだ名の意味合いはいくらでも変わってくる。温かく、楽しいものになりえる。そういう「文化」を、安易に禁止してはいけない。

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン