観音開きの「フリースタイルドア」が特徴のマツダMX-30
――そして、MX-30の最大のポイントは、いわゆる“観音開き”のフリースタイルドアを採用したことにもあります。この狙いはどこにあるのですか?
竹内:「自然体」のコンセプトとデザイン、機能の3つを実現させるためには、普通の4枚ドアではうまくいかなかったんです。ルーフ後方に向かってがどんどん上がってきてしまい、MX-30で目指したクーペルックなシルエットが箱型に近づいてしまいます。
クーペルックと空間の価値や使い勝手を考えた時、どうしてもトレードオフになって両立しなかったのです。ここで私たち開発チームは大きな壁にぶつかり、半年ほど足踏み状態が続きました。
そして、新しい空間という意味でも、またこのクルマを使われるお客様のオープンマインドなお人柄も、フリースタイルドアを採用すれば表現できるんじゃないかという結論に至りました。例えば、公園に立ち寄ってフリースタイルドアを全開にすれば、風や鳥の声を聞きながら開放的な気分になりますし、機能的にはお母さんがベビーカーのお子さんをクルマに乗せるのも非常にラクなんです。
ただ、直観的には躊躇するところがありましたし、従来のマツダ車のお約束だった一括企画開発からも外れてしまいます。さらに、側面衝突試験では、車体剛性上フリースタイルドアは不利なこともあり、私自身どうしてもネガティブ要素が頭から離れなかったことは事実です。
そんなときに背中を押してくれたのは、同じチームのデザイナーです。フリースタイルドアが生み出す世界観のスケッチをたくさん書いてくれ、フリースタイルドアでないと表現できない世界観があることを知りました。
そこで、私は腹を括って開発や生産部門、役員への説得に回り、開発着手から2年ぐらい経った頃、ようやくこのフリースタイルドアに切り替えることとなりました。
──社内でも反対意見が多かったのですか。
竹内:他の開発部門からは「MAZDA3やCX-30にないものをなぜやるのか、一括企画開発を無視するのか」と厳しい意見を言われましたし、生産部門からも「このクルマのために新たな投資をかけさせるのか」と、当初は大反対されました。そこはもう、いろいろな反証材料の資料を用意して、かなりの力技で粘り強く説得する以外になかったですね(笑い)。
──観音開きドアはそこまで珍しく、ハードルが高い技術なのですか。
竹内:当社では過去、「RX-8」で実装しています。他社ですと、BMWさんの「i3」や、過去販売されていたものでは、トヨタさんの「FJクルーザー」やホンダさんの「エレメント」などがあります。
ただ、いまは側面衝突試験のレベルが世界的にも厳しくなっていますので、側面衝突の安全基準でトップランクを獲得するにはかなりの補強が必要なことは間違いありません。しかも、欧州で先行販売しているEVバージョンのMX-30は、側面衝突時にバッテリーの電池も守らなければいけないので二重に大変でした。同時に、クルマの重量もいかに抑えていくかのハードルも高かったですしね。