トランプ大統領は、敗北宣言するつもりなどさらさらないようだ。それを後押しする共和党には醜い政治的打算がある。そして、政治ゲームの行きつく先にあるのは「アメリカのメルトダウン」なのか。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。
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新型コロナウイルスの脅威を知らされながら適切な対策を取らず、国民にマスクを着けさせるどころか、自ら進んでマスクを着けないことを国民の手本とし、その結果、24万人もの死者を出しているドナルド・トランプ大統領の責任は重い。CDC(疾病対策センター)は、今年1月から10月はじめまでの「超過死亡」は30万人にのぼると発表している。統計上、予測される死者数に比べて、それだけ多くの人が「余計に」亡くなっているという意味だ。コロナ問題の影響で、経済的に困窮したり、必要な医療を受けられなかったりして亡くなった関連死が疑われる。コロナ問題によって、実際にはコロナ死亡者の1.5倍ほどのアメリカ人が亡くなっていると推定されるのである。
そうだとすれば、すでに40万人近い国民の命が失われたことになる。このような比較が許されるのかわからないが、この数は、広島、長崎への原爆投下、沖縄戦のすべての犠牲者に匹敵する。人類が犯した壮絶な間違いの歴史に刻まれる愚挙である。
にもかかわらず、アメリカ有権者の47.5%がトランプ氏に投票したことも忘れてはならない。同氏が獲得した7100万という得票は、旋風を巻き起こしたオバマ大統領の1期目の大統領選挙よりも多いのである。
トランプ氏や共和党が、いくら民主党の不正を叫んでも、選挙結果がひっくり返ることも、まして再選挙が行われることもないだろう。一部で不正が明らかになったとしても、大勢を覆すような証拠が出てくる可能性は低い。それでもトランプ氏と共和党が退かないのは、この7100万票という強い国民の支持があるからである。逆に言えば、簡単に退いてしまうと、火が付いた「トランプ党」から自分たちが攻撃されてしまう恐れがある。
共和党の打算は、トランプ氏を置いてけぼりにはせず、トランプ党の支持をうまく取り込んで今後の党勢拡大につなげたいのだろう。上記の2012年の大統領選でオバマ氏と争った共和党のミット・ロムニー上院議員は、トランプ氏を「900ポンド(約400キロ)のゴリラ」と呼んで、今後もアメリカで「巨大な影響力」を持つことになると語った。ロムニー氏は党内にあってトランプ氏に批判的な立場を取る。この発言はそうなることを懸念するという意味だが、共和党内で、もはや巨大なゴリラを誰も抑えられなくなっていることがよくわかる告白だ。