松任谷:本当の恋の境地ですね。まりの夫といえば、愛人がまたすごいですよね。このかたどこかで見たわと思ったら、Netflixのドラマ『全裸監督』に出ていた女優さんでしたね。
柴門:のり子(森田望智)ですね。ああいう愛人は出てこられたら、いちばんイヤなタイプですね。原作ではもう少しキャリアというか、東大卒の女弁護士でインテリな雰囲気なのですが。
松任谷:キャストを選ぶときは大石さんもアイディアを出されるんですか。
大石:相談を受ければ意見は言いますが、キャストはプロデューサーが決めています。のり子は私も、「そうきたか!」と思いましたよ。原作のインテリな感じとは印象が違うけれど、森田さんのお芝居は面白くて圧力もあって、いいキャスティングだと思いました。
松任谷:原作を脚色される中で心に残る台詞も多かったのではないですか。
大石:たくさんありますが、第1話で杏が斉木(小泉孝太郎)にホテルの部屋で言う“怒りが性欲に変わる”という台詞は、うまいなぁと思いました。
松任谷:強烈なひとことでしたね。
柴門:あれは、『ダメージ』(1992年)という映画にすごく触発されていまして。
大石:あっ、旦那が息子の彼女と!
柴門:そう、旦那が息子の婚約者と不倫に走るんです。それを知った息子はショックで死んでしまい、息子を溺愛する母親は怒りが頂点に達して、旦那の前で服を脱いで「私を抱きなさい」と言い放つ。これですね、怒りが性欲に変わった瞬間は。人間ってやっぱりこういうことがあるんだわ、って。
大石:私もあの映画のそこ、衝撃が強かったです。
柴門:これで旦那が応じれば、たいしたものでしたけど(笑い)。『恋母』は結構映画に触発されていて、杏と斉木の関係を描くときに初めにイメージしたのはウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(2000年)なんです。あの作品も配偶者同士が不倫をするんですよね。
松任谷:あぁ、マギー・チャンと。
大石:トニー・レオンが! 私、彼が世界でいちばん色っぽいと思います。
柴門:杏と斉木がお互いに、どっちが誘ったのかなというシーンはあの映画からちょっともらっているんですよ。
大石:まさか、ウチの斉木が愛しのトニー・レオンだったなんて……。
松任谷・柴門:ウチの斉木!(笑い)
柴門:私はずっとユーミンのファンですが、ドラマの主題歌『知らないどうし』のサビの部分がとても響いたんです。ユーミンは悲しさをフラットな声で歌うところが好きなんですね。
松任谷:表向きは強気で、他人から見たら泣いてはいないのかもしれないけれど、胸の底で泣いている。何よりも悲しい。自分に失恋する感じなんじゃないかなって。曲調をあやしげなラテンでいこうというのだけ決めて、先にできた曲からの情報で自然と生まれてきた物語を歌詞にしました。優子のシチュエーションに表面的には近いかもしれないけれど、3人の心の動きのどこかには当てはまると思います。