この日は、もともと入口付近にある角打ち台に加え、「お客さんがもっと寛げるように」と謙一さんが大きめの角打ち台を店の真ん中に特別に設えてくれた。広々とした角打ちスペースで、常連客の姿が楽しげだ。
店主お手製の角打ち台で寛ぐ客には女性も多い。つまみは缶詰だ
「店の人がみんな優しくて、いつも安心して飲める店です。毎週金曜にここへ来るのが楽しみなんですよ。つまみはつぶ貝のアヒージョ缶、これがなかなかいけます」(50代、ダンス講師)と語る女性客に、隣で飲んでいた連れの男性が懐からスッと取り出した割り箸を手渡す。
「私は、ときどきマイ割り箸を持参するんです。いつもそこの冷蔵庫に店主がグラスを冷やしてくれているから、自分で取り出して飲むこともありますね。家の近所にこういう店があって本当によかった。小1時間飲んでストレス解消、心がふっと軽くなります」(50代、飲食関係)
するとそこへ、向かいのマンションに住むという若い夫婦が酒を買いにやってきた。
「3年前に結婚して以来、目の前に住んでいるもんで、いつもお酒を買いに来ていたんです。角打ちが始まってからはときどき同僚も誘って週1ペース。うちのマンションは昔ゴム工場だった、なんて話を聞きながら、利き酒師でもある3代目に酒のことをいろいろ教えてもらっていますよ。ここで飲んでいると妻も安心するからね」(30代、調理関係)
「岩田屋さんには、酒の配達もしてもらっているし、子供のころから家族同様のつきあい。夜勤明けでくたくたなんだけど、家の用事とかあれこれ片づけているとさ、あっという間に夕方になっちゃって。そんな日は、この店に来て店主と語らいながら一杯やると、今日もいろいろあったけど、あ~もういいかなぁって疲れが解けるんだよね。ここで飲む酒は自分へのねぎらい」(東向島在住50年の常連客)
客らの笑顔はどこまでも穏やかだ。夕暮れの商店街に温かな灯りが灯るころ、店主の願い通り、皆それぞれ “ここが自分の居場所“とばかりに店を訪れ、寛いでいる。
「懐かしい実家に帰ってきたようでホッとして…。ここで飲む酒はいつも焼酎ハイボール。5%じゃ物足りない、9%だと強すぎる。この酒は7%でちょうどいい酔い心地。この店の居心地にぴったりなんだよね。いつ飲んでもうまいです」(40代、団体職員)
つぶ貝のアヒージョはキリっと辛口の焼酎ハイボールにぴったりだ
(※2020年10月9日取材)