筆者はローブ氏にあまり良いイメージは持っていなかったが、昨年、同氏の講演を聞きに行き、その戦略の緻密さや頭の良さには驚嘆した。その講演や彼のこれまでの言動から導ける選挙戦略の特徴は以下のようなものだ。
・有権者を2つに分ける対立軸を作り、その大きいほうの層をターゲットに決める。
・ターゲット層が共鳴する簡単なメッセージを絶え間なく訴え続ける。
・陣営内を厳しく統制し、規律違反を許さない。
例えば、ブッシュ氏の再選が危ぶまれていた2003年にイラク戦争が始まると(ブッシュ政権が始めたものだ)、ローブ氏は徹底して「愛国者か、そうでないか」という訴えを繰り返す戦術を立て、戦争の高揚に乗って再選を実現させた。この手法は、ブッシュ氏と仲が良かった当時の小泉純一郎・首相にも影響を与えたとされている。2005年のいわゆる「郵政選挙」では、「改革者か、抵抗勢力か」という二分法で小泉氏が圧勝した。
そのローブ氏が参戦したことで、ジョージアの陣は共和党が優勢になったと言っていい。ただし、そのローブ氏自身が「敵将」として意外な名を挙げていることにも注意が必要だ。元ニューヨーク市長であるブルームバーグ氏が「2000万ドルの選挙資金を民主党に提供しようとしている」と触れ回っているという情報がある。名将・ローブ氏が、敵方につくと厄介だと見ているブルームバーグ氏を牽制しているということだろう。
ブルームバーグ氏はトランプ氏が大嫌いである。弱者に惜しみなく手を差し伸べる大富豪で、穏やかな優しい人物だ。もちろん筆者はジャーナリストとして選挙は中立な立場で見る。性格も戦術もまるで違うローブ氏とブルームバーグ氏が参謀として対決するならば、アメリカ政治史に残る興味深い戦いになるだろう。