「女の子だけじゃなく、ミスターの男子にも、コンテストのエントリー段階で『ステマ』の依頼がくる。SNSで化粧品を紹介すればいくらとか。大学OBの代理店社員とか、そういう人が絡んできて、案件を紹介される。かっこいいとか勉強ができるとかより、そういう『案件』をこなせるやつほど、コンテスト順位でも有利になっていきました」(吉田さん)
ステルスマーケティング、いわゆる「ステマ」は、広告であることを伏せて宣伝することをいう。SNSが消費行動への強い影響力を持つようになってからは、そこで日常のふりをした実際には広告の投稿をする、という手法が目立つことになった。ちなみに、「PR」マークやタグをつけずに広告の投稿をすること、つまり「ステマ」は、ほとんどのSNSで推奨しないことと明記されているし、止めるように規約に記されていることも多い。嫌らしい話だが、ステマを依頼する側も、もし桁違いの有名人がそれをやると目立つが、大学ミスコンにエントリーするくらいの有名人ならば、厳しい目を逃れられるという計算も働いているのだろう。
大学祭のイベントは、建前としては学生によるものだ。しかし現在の大学ミスコン、ミスターコンの周囲には学生だけでなく、OBや部外者までもが土足で入ってきている。さらに彼らは傀儡になりそうな学生サークルを結成させて怪しい「ミスコン」や「ミスターコンテスト」を無理やりに開催しては、小銭を産み出し満足げな顔をしていた。
「ミスコンが金になると知った学生主催者が、卒業後すぐにイベント会社を立ち上げるほど。完全なビジネスになっていて、一回のコンテストで動く額が数千万円という場合もある。過去のOBにもその取り分が上納され、その仕組みはねずみ講のような構造。だから、怪しい人たちがどんどん参入してきては、学生に入れ知恵をして、イベントがどんどん増える」(吉田さん)
だが、大学ミスコンやミスターコンが求心力を失っているのは、イベントそのものへのイメージ低下だけが理由ではないだろう。社会のなかで、ルッキズムへの逆風が強くなっていることも影響している。
例えば近年、おおらかな体型をしたタレントが人気だが、痩せ型が多いファッションモデルの世界でも「プラスサイズモデル」なるジャンルが注目を集めている。メディアやコンテンツの多様化が、様々な価値観を認める世界へとリードし、きれいやかわいい、かっこいいの基準が画一的ではなくなってきているのである。その人の特徴や個性を否定するのは前時代的で、ありのままの自分や人を受け入れるのが常識という考え方が広く受け入れられていることも、「画一的」な価値観が重視されてきたミスコンなどの地位を、相対的に低下させているともいえよう。
その一方で、SNSへの写真投稿をみると、相変わらず加工された画像ばかりだ。建前としてはルッキズムへの逆風が吹いているのだが、本音ではどうだろうか? わずか数年前まで「アメリカの一流企業は肥満の人を採用しない」とか「自己管理ができないとみなされる」と堂々と言われていたことも忘れられない。
再びミスコンがもてはやされる日が来るのか来ないのか。あまりに激しく変化する「価値観」を前に、目が回り思考も追いつかないが、今のこの潮流を「金にならない」と嘆く人はあっても「生きづらい」と考えている人は少ないように思えるが、どうだろうか。