「宮本さんはエレファントカシマシを結成する前は、歌謡曲で育ち、自身の青春だと公言しています。ちなみに実質的なデビュー曲は、児童合唱団に所属していた10歳の時に発表したNHKの音楽番組『みんなのうた』で放送された『はじめての僕デス』というシングルです。
破天荒で荒々しいボーカリストのイメージが強いかもしれませんが、そもそも歌手としての基礎力をきちんと持ったボーカリストなのです。
カバー曲に関しても、エレファントカシマシとしてリリースした松任谷由実の『翳りゆく部屋』のカバーはとても人気が高く、ライブでも頻繁に演奏してきています」
さらに小松氏は、今年3月に発表した初のソロアルバム『宮本、独歩』の制作経験も、今回のカバーアルバムに生かされていると指摘する。
「2020年にリリースした初のソロアルバム『宮本、独歩』は、椎名林檎さんや横山健さんや東京スカパラダイスオーケストラといったアーティストとコラボレーションし、パンクやラップやダンスミュージックといったこれまでにない音楽性も大胆に取り入れたアルバムで、それによって宮本さんの歌い手としての力量はさらに進化したと思います。
そんな素晴らしく歌心のある歌い手が歌謡曲の名曲を歌い、またそれを、歌心を際立たせる一級のアレンジ力を持つ小林武史さんや蔦谷好位置さん等が手掛けるという、名タッグによって作られたカバーアルバムが『ROMANCE』なのだと思います」(小松氏)
『ROMANCE』はコロナ禍で自粛生活を余儀なくされるなか、自身の内面と向き合った宮本が孤独な制作現場で歌に取り組んだことがきっかけで生まれたカバー集でもあるという。つまりリスナーを感動させるために歌っているのではなく、ひとえに自らの人生と音楽に向き合ったことが、結果的に心を揺さぶるような“おんな唄”へと結実したということなのかもしれない。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)