「『ザ・ハングマン』で俺は復活したんですよ。大好きだもん、ああいうの。僕の代表作といっていいんじゃないですか。ああいうのを映画でやりたい。
最初は林隆三が主役で俺が脇だった。それが途中で俺が林隆三を越したわけだ。
でも、俺って変なところがあるの。自分が主役になって、その評判がいいと落ち着かなくなる。それでライバル視できる二枚目が欲しくなって、名高達男を入れたんです。あいつに負けたくないと思うと、燃えてくる。
ただ、監督によっては意見が合わないことがありました。これは俺のポリシーなんですけど、スターと俳優は違うんです。俺はスターになりたくてこの世界に入った。たとえば、十人とアクションしても、その十人をやっつけた後に息をハアハア言ったり、汗をかきたくない。何人倒しても涼しい顔で去りたい。
ハングマンもそう。ハアハア言ったらダメなんです。かっこよく去るのがハングマン。でも、『役者の演技』を大事にする監督だと『走ったら息を切らしてくれない? 追いかけて捕まえて、息を切らさないのはおかしい』と言うわけです。それで俺は『犯人はハアハア言ってもハングマンは息一つ切れない。それがいいんだ』って。それでぶつかる。
でもね、格闘して汗かくのはやられる方なんですよ。ハアハア言ってたら観る方は『なんだ、俺と同じじゃないか』となる。スターは憧れの存在じゃないと。勝新太郎さんが座頭市で何人も斬っても息は切れない。それがスターなんです。スターは人間離れしてなきゃダメなの」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/映画史・時代劇研究家。1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2020年12月18日号