朗読劇「ラヴ・レターズ」に登場した松重豊
高身長であるという、当初は“マイナス”だと考えていた特徴を、松重はむしろ持ち味として活かし、唯一無二の俳優としての地位を確立していった。コミカルな演技からシリアスな役柄までこなせてしまうのは、舞台で培った演技力の賜物でもあるだろう。小野寺氏は続ける。
「近年、『検察側の罪人』(2018)で、木村拓哉演じる主人公に殺人をレクチャーする闇社会の人間の役を演じていましたが、長い手足と強面(コワモテ)が活かされていました。『孤独のグルメ』のほんわかした井之頭五郎とは違った、不気味だったりダークな役も似合う俳優だといえます」
その演技力があるから、ひたすら松重がおいしそうに食べているだけでも“画がもつ”。一人飯だからセリフも大きな動きもないという制約の中、モノローグのナレーションとわずかな表情の演技だけで井之頭五郎の満足感が視聴者に十分伝わるのだ。加えて、大きな体躯を持て余すかのようにおとなしく食事を楽しむ様は、それだけでコミカルな魅力がある。
「ちなみに、『孤独のグルメ』のヒット以降は、外食すると無言で量を増やしてくれるなどサービスされて食べきるのが大変だったり、厨房からギャラリーとして従業員が見にくるなど、プライベートでは弱ってる部分があるそうです」(小野寺氏)
どんな役柄でもこなせてしまう上に、視聴者が思わず親近感を抱いてしまうような雰囲気をも持ち合わせた松重豊。『孤独のグルメ』が8年間にわたって愛され続けてきたのは、そんな彼の脱力感溢れる魅力が詰まった作品だからなのかもしれない。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)