二席目の『粗忽長屋』は死骸を見た八五郎が「これ、俺だよ!」と驚き、違うと言われて「じゃあ熊だ!」となる展開。「お前は死んだ」と言われた熊五郎は「俺、脈あるよ」と反論するが「俺と脈とどっちを信じるんだ!」と八五郎は譲らない。熊を連れて戻った時には行き倒れのおかみさんが身元を特定しているが、八五郎の勢いに押されておかみさんまで「うちの人が二人も」と言い出す始末。萬橘の発散する過剰な熱量がバカバカしさを倍増させている。
トリネタは『味噌蔵』。「商人と泥棒は背中合わせ」が信条の旦那の吝嗇エピソードが強烈で、その留守中に飲み食いする奉公人たちの「旦那の悪口で盛り上がる」描写の楽しさは他の演者にはない魅力だ。
やっぱりナマが一番。「配信しない萬橘」の落語が、そう訴えていた。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2021年1月15・22日号