「アメリカの良心」とも呼ばれたクロンカイト氏(EPA=時事)
クロンカイト氏といえば、ベトナム戦争でアメリカの劣勢を報じて終戦に導いたことで知られ、「アメリカの良心」とも呼ばれた。彼はケネディ大統領のファンで、オフィスに写真を飾っていたほどだ。ケネディ大統領の死亡が確認されたという情報を伝える時、クロンカイト氏はメガネを外し、目を拭った。放送後、同氏のオフィスに女性の視聴者から抗議の電話があり、放送で涙を流すなどアンカーマンとして失格だと非難された。その瞬間、クロンカイト氏は「Goddamn Mom!(だまれ!)」と怒鳴って電話を切ったそうである。後日、筆者はクロンカイト氏にも会う機会を得て、直接確かめた。彼はあのように怒ったことはジャーナリストとして最初で最後であり、ケネディ暗殺を「私の人生における真の悲しみだった」と語った。
ラザー氏はその後、クロンカイト氏からアンカーマンを受け継ぐ。彼らのスクープが偶然によってもたらされたものであれ、感情を露わにしたことが報道倫理にそぐわないものであれ、暴力に怒り、アメリカの民主主義を守ろうとした動機は正しかったというべきだ。それに比べて、トランプ氏を叩いて視聴率を稼ごうとするだけの今日のニュース・ショーは、どうしても軽薄で醜悪に見えてしまう。
バイデン大統領は、就任と同時に全速力で仕事を進めなければならない。パンデミックとの戦い、環境問題に関するパリ協定への復帰、世界保健機関への復帰、同盟国への安保条約改定要求の取り消し、移民排斥の撤廃――何もかも待ったなしである。
アメリカが失ったものは大きい。民主主義と、それを支えるメディア再建の道は険しく、長い道のりとなるだろう。