国内

池袋暴走死傷事故遺族・松永拓也さんを支えた1冊のノート

松永さんご家族3人の思い出写真

莉子ちゃん1才のお誕生日。毎年年の数だけバラの花を贈っていた。

 2019年4月19日、東京・池袋の路上で暴走する高齢ドライバーが運転する車によって11人が死傷した事故。自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われる旧通商産業省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(89)の第4回公判が1月19日東京地裁で行われた。命を奪われてしまった松永真菜さん(当時31才)、莉子ちゃん(当時3才)の遺族、松永拓也さん(34)のこの1年半の日々、そして今思うことを、元捜査一課刑事で被害者・遺族への支援活動を行う佐々木成三さんが聞いた。

 * * *
佐々木成三さん(以下敬称略):昨年10月から裁判が始まって4回目の公判を終え、どんなお気持ちでしょうか。

松永拓也さん(以下敬称略):正直、今でも夜1人でベッドに横になっている時とか、ふと「実刑が出たら、自分の心は晴れるのかな」「これで2人の命が戻るわけじゃない」と思い悩む時もあるんですよね。

 でも被害者参加制度で裁判に参加していろいろな証拠や検証の結果を見ると、警察の方々がほんとうに緻密な捜査をしてくださったのだなと感謝しています。

 裁判に参加することで現実を知るのも加害者の顔を見るのもつらい作業で、もちろん参加しないという選択肢もあるのですが、これだけ大きな交通事故が軽い罪で終わってしまう前例を作るのは社会に禍根を残すことになる。失った命は戻らないけど、真相が明らかになることによって、今後こういった事故を防ぐにはどうしたらいいかつなげていきたい、と考えています。

佐々木:大切なご家族を失うという想像を絶するお辛い経験から一歩踏み出して、どうやってそういった気持ちを持てるようになったのでしょうか。

松永:事故の後、もう死んだほうがましだと思いました。

 娘が成長してひとり立ちしたら、妻と老後まで生きていくんだろうな、なんて漠然と想像していた未来はなくなってしまった。私はただの会社員でテレビの向こう側の話だと思っていた出来事が突然起こって、いきなり目の前が真っ暗になってしまったんです。

 1か月間毎日、事故現場に通って考え続けました。亡くなってしまったけれど真菜と莉子を愛している気持ちは変わらない、そして自分を愛してくれた人が確かにいたんだ。だから2人の命を無駄にしないで生きる、と決めました。

 そう決めたからには、誰かの命が交通事故で失われるのを未然に防ぎたい。自分が死ぬ時には「真菜と莉子の命を無駄にしなかったよ」って2人に言えるようになりたいと。

関連キーワード

関連記事

トピックス

エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人インスタグラム)
《過去に独立トラブルの安田美沙子》前事務所ホームページから「訴訟が係属中」メッセージが3年ぶりに削除されていた【双方を直撃】
NEWSポストセブン
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
阿部詩は過度に着飾らず、“自分らしさ”を表現する服装が上手との見方も(本人のインスタグラムより)
柔道・阿部詩、メディア露出が増えてファッションへの意識が変化 インスタのフォロワー30万人超えで「モデルでも金」に期待
週刊ポスト
昨秋からはオーストラリアを拠点に練習を重ねてきた池江璃花子(時事通信フォト)
【パリ五輪でのメダル獲得に向けて】池江璃花子、オーストラリア生活を支える相方は元“長友佑都の専属シェフ”
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員。2020年1月(時事通信フォト)
《山口組新報にみる最新ヤクザ事情》「川柳」にみる取り締まり強化への嘆き 政治をネタに「政治家の 使用者責任 何処へと」
NEWSポストセブン
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
NEWSポストセブン