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芝向きの馬をダートに使う背景、角居師が解説【さらば愛しき競馬vol.9】

角居勝彦調教師

角居勝彦調教師は東京競馬場でGIを

 現役最多のGI38勝(中央、地方、海外)を誇る角居勝彦調教師は、家業である天理教の仕事に就くため2021年2月で引退、角居厩舎は解散となる。調教師生活20年、厩務員として栗東トレセンに来てから34年、北海道のグランド牧場で初めて馬に触れてから40年。角居師は自身のホースマン人生の集大成として『さらば愛しき競馬』を上梓した。角居師によるカウントダウンコラム(全13回)、今回は冬場に多くなるダートのレースについて解説する。

 * * *
 今週から関東は中山に替わって東京競馬場での開催、関西ではそのまま中京競馬場、そしてローカルの小倉競馬場ということになります。東京の最終日(2月21日)には今年最初の、そして私にとって正真正銘最後のGⅠとなるフェブラリーステークスが行なわれます。

 東京競馬場は芝の1周距離が2083.1m(Aコース)、直線が525.9mと、とにかく広い。1周の距離や直線は新潟の方が長いですが、コーナーのカーブがゆるやかだし、幅員も最大で41mあるので、ゴチャつくことがありません。いわゆる「まぎれ」がなく、道中で多少の不利があっても、直線が長いので、力通りの決着になります。逆に言えば負けたときの言い訳ができません。

 角居厩舎の出走が多いのは、もちろんホームグラウンドともいえる京都と阪神で、開業以来前者が1400回以上で後者も1300回以上。次に多いのが関西圏の小倉と中京で500回を超えています。その次が東京で昨年まで495回、以下中山、新潟、札幌、函館、福島となっています。

 しかし東京での勝ち数は小倉や中京を上回っており、重賞勝ち数は京都・阪神をも上回っている。GⅠは12回も勝たせてもらいました。そのうち6回はウオッカで、彼女はとにかく東京が大好きでした。

 東京競馬場に出走させるときは、とにかく勝ちに行くという覚悟です。

 冬場はダートのレースが多くなる。今週行なわれる根岸ステークスでは、2015年にエアハリファが根岸Sを勝っています。アメリカ産、UAEダービーを勝ったディスクリートキャットの子ということでデビュー戦からずっとダートを使いました。4歳の3月、10戦目の甲南ステークスを勝ってオープン入り。6歳2月のこのレース前まで17戦して7勝、うち15戦は3着以内でした。

 冬のダートで見逃せないのは馬場の状態です。この時期は馬場が凍らないように凍結防止剤を撒くことがあり、そうすると砂に粘りが出て馬場が締まり、スピードのある馬が有利になるのです。道中脚をタメてキレ味を生かして抜け出すという角居厩舎の流儀に合う。エアハリファはダート血統ですがスピードは豊かで、特に冬場のレースは得意でした。

 芝向きの馬をダートに使うことも多くなります。ダートと比べれば芝は軽いので、「変速ギア」の多い馬が有利。鞍上のゴーサインに応えて馬体が微妙に沈み込み、締まった路盤を蹴って一段スピードを上げるのです。

 デビュー戦では馬主さんの意向もあって芝を使うことが多いのですが、そこで結果が出ないとなかなか次のレースに出られなくなる。ならばレース数の多いダートを使って、最低でも次走の優先出走権を獲りにいくことも考えなくてはいけない。そんなことで「初ダート」の馬が好走することが多いというわけです。

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