小松さんは阪神・淡路大震災の後、『大震災’95』というルポをまとめました。被災地の全貌を記録して、様々な専門家に話を聞き、後世の人たちに残そうとした。未曾有の大危機が起きた際、災害の専門家だけが地球を救えるわけではない。人間同士のコミュニケーションを含め、様々な専門知を統合した「総合知」で判断しないと、人類は危機に立ち向かえないというメッセージを出したのです。
今回のCOVID-19パンデミックでも、小松さんが繰り返し主張した「総合知」の必要性を強く感じます。当初、「経済が立ち行かなくなる」と専門家会議に批判が集まりましたが、実は人文社会系の叡智も含めた総合的政策決断を誰よりも願っていたのは彼らだったと思います。小松さんのように専門知をつなげて未来を見通せる人は、いつの時代でも求められるのです。
【プロフィール】
瀬名秀明(せな・ひであき)/1968年、静岡県生まれ。1995年『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞、1998年『BRAIN VALLEY』で日本SF大賞を受賞。小松氏の『虚無回廊』のトリビュート作『新生』や、ウイルス学の専門家らとの共著『ウイルスVS人類』などの著書がある。
写真/小松氏のアルバムよりお借りしました
※週刊ポスト2021年2月5日号