この指摘は重要だ。トランプ氏が共和党に遺した「遺産」のひとつは、中国へのかつてない強硬な政策だ。それは中国の経済発展によって職を奪われたオールド・エコノミーの票を獲得するための戦略ではあったが、それによって中国の人権問題が多くのアメリカ人に知られることになり、バイデン政権はそれを無視できなくなった。野党となった共和党は、今度は中国の人権侵害を問題にすることで、バイデン政権が中国と融和できなくする縛りをかけることができる。
それは米中が長く冷え込んだ関係になることを意味する。それは東アジア情勢にとっても必ずしも良いことではない。クリストフ氏はこう提言している。
〈習主席と中国を分けて考えよう。前者を批判し、後者を悪魔と見なすことはやめるべきだ。バイデン大統領にとって、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務と話すことは習主席と取引するよりずっと簡単だ。中国の人権問題や不誠実を批判するのはいいが、気候変動や薬物汚染、北朝鮮問題では中国と協力できるはずだ。我々が旧ソ連との冷戦で学んだスキルを活かすべき時である。〉
クリストフ氏は中国に寛容な立場のジャーナリストだが、いわゆる「親中派」というわけではない。民主党と共和党が対中政策の厳しさで競えば、政権を担う民主党が厳しい立場に追い込まれることは必定だ。かといって米中が決定的に対立すれば、第二のキューバ危機を招きかねない。その舞台はキューバではなく東アジアになるかもしれないのだ。バイデン政権には、中国と「正しい冷戦」を維持しながら軍事的緊張を回避し、改革を促す技量が問われている。