人間国宝で父親で被介護者を演じる(時事通信フォト)
「自死するほど追い込まれることも珍しくない家族介護について、声高に何かを訴えるようなことも時に必要かもしれません。しかし、『欠格人間になってしまった』のような挫折感を味わう本人や、先の見えない絶望感や無力感に苦しむ家族、感情を押し殺すように振る舞うことしかできない医療介護の専門職など、フィクションだからこそ伝わりやすく表現できる部分もあるのだと思います。
人気の役者さんが、突然訪れた家族の介護に戸惑いながらも見放すことなく、愛情もって取り組む様子を演じることによって、介護をとりまく重く暗いイメージが払しょくされるのではないでしょうか。ドラマを通して、実際に介護に接したことのない人や若い人にも、介護に挑む家族の現状や想いなどが伝わっていくことに期待しています」(篠塚氏)
その上で、篠塚氏が『俺の家の話』の介護監修でこだわっている部分とは何か。
「劇中には、被介護者本人と家族、介護ヘルパー、ケアマネージャーに加え、他にも弟子など『近くの他人』や医師など、様々な立場の人々が登場します。
言葉では同じ『介護』であっても、被介護者の気持ちと家族の気持ち、公的サービスとして提供される保険福祉との間には少なからずギャップがあります。本人のしたいこと、家族のしてやりたいことは、制度サービスでいう『介護』というより、家族への情愛のようなものだろうと思います。だからこそ自ずと矛盾が生じる場面もあることでしょう。
そうした立場の違いや個々の期待を想像した上で、プロが業務として行う介護の動作や文言、表現には間違いのないよう確認しています」(篠塚氏)
介護はありふれた問題だが、介護を描く物語はあまりに少ない。『俺の家の話』をきっかけに、今後も「介護ドラマ」が生み出されることに期待したい。
◆取材・文/原田イチボ(HEW)