アメリカが分断から団結に向かうためには「富の偏在」の是正が不可避だが、その方法は日本のようにもっと富裕層に重税を課し、それを低所得層に再配分するしかない。ちなみに、アメリカの連邦所得税の最高税率は37%で、日本の所得税の最高税率は江戸時代の「五公五民」に近い45%だ。
アメリカの場合は州所得税もあるが、ワシントン州、テキサス州、フロリダ州などはゼロなので、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOやマイクロソフトのビル・ゲイツ共同創業者はワシントン州、テスラのイーロン・マスクCEOはテキサス州、トランプ前大統領はフロリダ州に住んでいる。もしアメリカが金持ちに日本並みの重税を課したら、彼らはすぐに国籍を変えて海外に逃避するだろう。
また、テキサス州は法人税もゼロなので、いま続々とシリコンバレーの企業が州都オースティンやダラス、フォートワースなどに本社を移している。テキサス州が新たな「メガリージョン」になりつつあるわけだ。
このままアメリカの分断が続いたら、バイデン大統領は4年もたないと思う。私はトランプ前大統領の就任時に「4か月しかもたないだろう」と予測して外してしまったが、歴代最高齢のバイデン大統領の場合、任期を全うするのは難しいのではないか。もし任期半ばで退陣したら、カマラ・ハリス副大統領が女性初の大統領になる。しかし、彼女は検事出身で外交と経済が未経験なので、大統領としての政治手腕は未知数だ。
そういう前途多難な同盟国アメリカと日本はどう付き合っていくか? この舵取りは非常に難しい。やはり外交と経済の経験がない菅義偉首相には荷が重いと言わざるを得ないだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。
※週刊ポスト2021年2月26日・3月5日号