「現実とストーリーをリンクさせ、しかもそれを週刊連載で書くことは、ものすごく大変な作業であることは想像に難くありません。しかも、あとがきを読むと『当初は東京五輪の開催を見据えてプロットを作っていた』とありました。コロナによって見通しがたたなくなり、そのプロットを大幅に変更せざるを得なくなったのはミステリー作家としては大きな痛手だったでしょう。だけど、ラジオディレクターの志駕さんならワケもなかったと思う。なぜなら、この作品って、実は“ラジオそのもの”なんです。

 ラジオは大部分が生放送です。一応、台本もありますが、台本通りにできることのほうがレアケース。生放送の最中に大きなニュースが入って来ればその瞬間で、柔軟に進行を変えていかなければならない。志駕さんはディレクター時代、毎日のようにそんな現場にいたから、“現実に飛び込んできたニュースに合わせて内容を変えていく”という小説の作り方は、彼にとっては、最も馴染みの手法なのです」

 志駕さんのディレクター的手法とともに森永さんが舌を巻いたのは、生活苦に追われ、友人に誘われるまま「パパ活」に手を染める主人公・咲希を始めとする「パパ活女子」たちの描写だった。

「どうしてあんなに若い女の子の心理が鮮明に描けるのか、と不思議な気持ちになりました。私なんか、『パパ活』と聞いても『そんなの、やっちゃダメだろう!』と一喝してそこで話が終わってしまう(笑い)。だけど志駕さんは一歩踏み込んで、彼女たちがなぜそうしなければならなかったのかを考え、描写している。ほぼ同じ世代の男なのにこんなに女性の心理がわかるんだろう、と不思議に思ったのですが、ディレクター時代を振り返ってみると彼は人の心理を読み解く天才だった。

 いまでも覚えているのが、フリーアナウンサーの垣花正くん(49才)と一緒に番組をやっていた時のこと。ある日の本番中、垣花くんがスタジオで読者からのハガキを読んでいて、私は志駕さんと2人外にいたんです。すると、志駕さんが突然『よし、カッキー(垣花さん)泣かせるか』ってぼそっとつぶやいた。きょとんとする私をよそに、志駕さんは垣花さんの琴線に触れるBGMを徐々にボリュームを上げながらかけていった。そうしたら垣花くん、本当に涙ぐんでしまったんです。

 本作の魅力は、登場人物たちの“心理”にもあると思います。最初は週刊誌の仕事は向いていないと愚痴っていた友映が、どう仕事に向き合うようになっていくのか。咲希たちがどんな心理でパパ活にハマっていくのか。次々に現れる怪しい登場人物たちは、何を考えているのか…・。最後まで読み通したあと、読者であるあなたの心もきっと大きく動かされているはずです」
 
◇森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年7月12日生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。現在『情報ライブミヤネ屋』(日本テレビ系)ほか、多数のメディアで活躍中。

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