もちろん、彼らの背後には反社会勢力の影がちらついていた。時には半グレのメンバーが直接、キャッチに立つこともある。もちろん、キャッチとプチぼったくり店はお互いに利益を分け合う共犯関係にある。彼らの普通ではない雰囲気は、飲食業の世界をよく知らない人でも、なんとなく感じるものだ。だから、通常時ならキャッチについていくのは酔っ払って勢いづいていたり、あまりにも世情に疎い人だった。ところが、と前述の飲食店店主が続ける。
「飲み足りないって若いやつだけじゃなくてさ、普段なら敬遠して絶対に入らないようなパリッとしたスーツ姿のサラリーマンまでさ、どんどんキャッチに付いていっちゃうの。うちのお客さんもどうしても飲みたくて入っちゃったらしいけど、なんか普通だったって言ってたよ」(飲食店店主)
他の店がやってないからこその「スキマ商売」とでも言おうか、いや、平たく言えば「闇営業」そのものなのだが、キャッチに連れられた客が、わかっているのかいないのか、そのままプチぼったくり店に吸い込まれていくというのだ。ところが、あまり酷い目に遭っている様子がない。
冒頭の小柄金髪に事情を聞いたところ、実に生き生きした感じで「儲かってます!」と白い歯を見せる。
「プチぼった店というか……(笑)、いや、今はまともにやってますし、まともにやってないとお客さん怒って帰っちゃうんで。キャッチはグレーかも(筆者注:路上での客引き行為は条例違反)しれないけど、他に店もないしキャッチいらないくらいお客さん来てくれてます。うちは時間制限なし、タバコ吸い放題、席料も深夜料金もサービス料もないんで!」(あるキャッチ)
筆者が店に入る事はなかったが、出てきた客に話を聞いてみると、やはり「意外と普通」と答え、さらにこの店がどういう店かも知っていると応えるのである。
「キャッチがいる店だからろくな店じゃない、と知っていましたが、最近マシになったって聞いてね。そういう店しかやってないし、そういう店の中でも『サービス合戦』やってるみたいよ。ビールも水っぽくないし、ハイボールは逆に濃かった」(店利用客)
筆者が立って眺めていると、制服のようなものを着た中年男性がやってきて、キャッチに向かって「禁止行為をやめてください」と拡声器を使い怒鳴ったが、キャッチは完全無視、そしてキャッチに声をかけられている客がコソコソ顔を隠すようにして、雑居ビルの中へと連れて行かれた。
コロナ禍の緊急事態宣言下で、違法キャッチ絡みのプチぼったくり居酒屋同士が「営業努力」に励んでいるというのはなんとも皮肉な話だ。とはいえ、結局のところは何がなんでも「飲みたい」というニーズがあるから、彼らはそこで少しずつ条例や法律を破りながらでも商売を続けられるのだ。