『花束みたいな恋をした』公開直前イベントに登場(時事通信フォト)

『花束みたいな恋をした』公開直前イベントに登場(時事通信フォト)

「女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見るたびに一生その子のことを思い出しちゃうんだって」(有村演じる絹のセリフ)
「えらい人なのかもしれないけど、その人はきっと今村夏子さんの『ピクニック』を読んでも、何も感じない人だよ」(菅田演じる麦のセリフ)
「始まりは、終わりの始まり」(有村演じる絹のセリフ)

 紙に出力をしたら全てを太文字にしたくなるような、印象的な言葉を2人はごく自然に話している。まるで生活音を鳴らすような雰囲気で、当たり前の今日を演じている。マスクも消毒もしない、コロナ禍以前の普通の東京での話。今だからこそ求めてしまう、日常の魅力がこの作品には詰まっているのだ。

鑑賞後は主演の2人しか記憶に残らない

 主人公の麦(菅田)と絹(有村)を見ていて、ニヤッとしながら思い出すシーンがいくつかある。

 雨に濡れた絹の髪の毛を乾かす麦。2人で暮らそうと決めて、引っ越した先にあった老舗パン屋の“焼きそばパン”を一口ずつ頬張って、嬉しそうに笑う。電車に乗ると、恋人らしい密着感で座る。

 こんな“普通”の風景が心に残る。その分、セリフは一癖も二癖もあるような、煮込まれた言葉ばかり。普通と名セリフのバランスを取る演技は難しい。ただ2人とも、まるで本当に付き合っているような雰囲気を醸し出しつつ、表現していた。

 静かに見せているけれど他の追随を許さない、これが若き彼らの実力だ。「オーバーリアクション」「体型を変える」「怪演」など、世間一般で言う“爪痕残し”のような演技は数多存在する。でも、こんな普通を演じ切ることこそ、実った力=実力と言える。

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