MGCで本来のスピードを見せられなかったことに加えて、もうひとつ「1年遅かった」のが「日本新記録ボーナス」だ。日本実業団陸上競技連合は、東京五輪に向けて選手強化をはかるため、2015年から「日本新記録を出した選手にはボーナス1億円」という報奨金制度を設けてきた。これによって、設楽悠太が1回、大迫傑が2回、ボーナスを手にしているが、制度は昨春で終了してしまったため、鈴木には1円も支払われない。世界的な大会でも、ボストンマラソンの優勝賞金は15万ドル(約1600万円)、シカゴマラソン、ニューヨークシティマラソンはそれぞれ10万ドル(約1070万円)、東京マラソンは1100万円。それと比べても1億円ボーナスは破格だった。
所属する富士通は日本新記録更新を受けての鈴木への「特別ボーナス」について、「社内規定に基づいて支給されますが、その時期と内容については非公表とさせていただきます」(広報IR室)とする。ファンとしては、2024年パリ五輪のホープとなった鈴木にしっかりと報いてもらいたいと感じてしまうところだが、「1億円ボーナス」を出していた日本実業団陸上競技連合はこう説明する。
「報奨金は東京五輪に向けた選手強化のお役に立てばと設けた制度です。代表選考も終わっており、制度の目的も終えています。それに、昨年3月の東京マラソンで大迫選手が日本新記録を出したことで、我々が集めた協賛金も使い切ってしまったのです」
いろんな意味で「遅れてきた天才」というわけだ。母校の大後栄治・監督は、鈴木を「神奈川大で見てきた700人の教え子のなかで一番才能があり、一番努力する」とべた褒めしている。パリに向けては、びわ湖で見せた驚異的なスパートのように、ライバルを置き去りにして突っ走ってほしい。