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2021.03.10 16:00  NEWSポストセブン

トヨタが描く「水素社会」3つのポイント 未来への挑戦、そして期待

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2世代目となる新型MIRAI。航続距離も延びた(トヨタ自動車提供)

2世代目となる新型MIRAI。航続距離も延びた(提供:トヨタ自動車)

 トヨタ自動車が富士山麓(静岡県裾野市)で建設を始めた“未来都市”が話題となっている。「Woven City(ウーブン・シティ)」と名づけられた街は、東京ドームおよそ15個分・約70万平方メートルもの広大な敷地を有し、自動運転やICT(情報通信技術)を駆使したコネクテッドカー(つながるクルマ)など技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回す。単にクルマの開発にとどまらず、ヒト中心の街づくりの実証プロジェクトというトヨタの壮大な試みがスタートしたのである。

 いま、「100年に一度の大変革期」といわれる自動車業界にあって、トヨタは“自動車をつくる会社”から“モビリティカンパニー”への変貌を掲げている。豊田章男社長はこれについて、「世界中の人々の『移動』に関わるあらゆるサービスを提供する会社になる」と語っている。ウーブン・シティは、様々なモノやサービスがつながる、「ヒト中心の街」、「実証実験の街」、「未完成の街」というわけだ。

 このように社会全体の変革にトヨタがコミットしようとしている中で、同社がもうひとつ旗振り役となって注力しているのが、「水素社会の実現」である。

 地球温暖化、大気汚染など深刻化する環境問題を考えたとき、CO2(二酸化炭素)の排出削減は避けて通れない。菅義偉首相も「2050年にカーボンニュートラル(※注)、脱炭素社会の実現を目指す」と表明しており、クリーンで持続可能な社会を構築するためには、エネルギーの多様化が必要だ。そこで、将来有力なエネルギーの一翼を担うとして注目を浴びているのが水素なのである。

※注/モノが生産され廃棄されるまでの間にCO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになること。

信頼性の高い水素の保存方法も開発

 水素は、水を電気分解することで取り出すことができ、酸素と結びついて発電する。化石燃料と違ってエネルギーとして使用した際にはCO2を出さず、出るのは「水だけ」である。トヨタは1992年から水素を利用した環境技術開発を進め、2014年に“究極のエコカー”と呼ばれる世界初の量産型FCV(燃料電池自動車)『MIRAI(ミライ)』を発売。2020年12月より航続距離を伸ばし、操縦性にもこだわった2代目となる新型MIRAIを発売している。

 いまは次世代車といえばEV(電気自動車)のイメージが強く、もちろんトヨタもEV開発は進めているが、「EVかFCVか」の二者択一ではなく、既存エネルギーとの棲み分けも図りながらゼロエミッション車への切り替えを行っていく構えだ。そのため、FCV開発にも余念がなく、長く本気で取り組んできた。

 なぜ水素なのか──。ここには3つのポイントがある。

 まず、前述の通り、水素は使用過程において、CO2排出量がゼロだということだ。現在では、水素を製造する過程で火力発電の電気を使うことなどからCO2が発生しているが、将来的に再生可能エネルギー(太陽光や風力など)によって安定的・効率的に水素を製造できるようになれば、CO2を排出しない水素社会を実現できることになる。

 2つ目のポイントは、水素は“ほぼ無限”に作ることができるということだ。化石燃料は有限だが、水の惑星である地球では、水を電気分解すればいくらでも水素を作ることができる。また、下水の汚泥や天然ガスから水素を取り出す研究も進んでいる。

 3つ目は「貯める」「運ぶ」ということができる点だ。太陽光発電や風力発電は天候・気象により発電できないことがあって安定的ではないとされるが、太陽光や風力で得られた電力を水素に変換しておくことで、「貯める」「運ぶ」が可能になる。

 水素をめぐっては「可燃性がある」「危険だ」といったイメージがあるが、信頼性の高い保存方法も研究・開発されている。前出のMIRAIでは、耐久性と強度が確保された高圧水素タンクで「漏らさない」、そして万が一にも水素が漏れた際にはバルブを遮断し、漏れた水素を拡散させるという技術が搭載されている。

水素ステーションは全国に増えつつある(提供:岩谷産業株式会社)

水素ステーションは全国に増えつつある(提供:岩谷産業株式会社)

 FCVは燃料コストや水素充填のステーション整備の問題など普及に向けての課題はあるが、EV(電気自動車)に比べて水素燃料は充填時間が短く、前出の通り「貯める」「運ぶ」といったこともできる。そのため、大量にエネルギーを消費する大型トラックやバス、建設機器、漁船、鉄道車両などニーズは限りなく広がっているのだ。

 こうした水素社会の大きな基盤をつくるためには、トヨタ1社の力だけでは限界があるだろう。そこで2020年12月にトヨタをはじめ民間企業88社が水素インフラの整備を進める「水素バリューチェーン推進協議会」を発足させた。まさに“オールジャパン”体制で水素の需要創出、技術革新によるコスト削減、事業者に対する資金提供などを行っていくという。

 さらに、トヨタはFCVの心臓部ともいえる自社開発の燃料電池システムの外販に乗り出す。2015年にはFCV普及に向けた取り組みの一環として、5000件以上の関連特許を無償開放している。より多くの企業がFCV事業に参画しなければ市場は成熟しないからだ。ここからも水素にかけるトヨタの本気度がうかがえる。

 豊田社長はよくインフラとクルマを“花とミツバチ”の関係に例える。「一方だけでは繁栄できず、互いに求め合いバランスが取れて初めて共存できる」(豊田社長)ということだ。

 ウーブン・シティの中には、燃料電池発電や物流設備などの生活インフラも整備される予定だ。トヨタが描く「水素社会の未来」は、どこまで花を咲かせてミツバチを集めることができるのか──。その手腕とリーダーシップに期待が高まっている。

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