BLドラマといえば、これまで台湾やタイ、日本の作品が動画配信サービス経由で放送されてはいたが、韓国では一部の女性にしか受け入れられないジャンルだと思われていた。それがコロナ禍以降、人間性や人との繋がりを失いたくないという人々の気持ちが強くなったからか、優しい世界を描いた癒し系の作品としてBLドラマが注目されているようだ。
BLドラマの内容自体も、BLに拒否反応を示すような人物が登場しない傾向に変わってきているように思う。これまでは、BLの登場人物が自分のアイデンティティーについて悩むような物語や展開が多く描かれていたが、今は一生懸命に相手を想う恋そのものがテーマとなっており、その主人公が男性同士だったというだけ、という印象だ。『To My Star』の制作会社代表は韓国メディアのインタビューで、「今までなかった新しいジャンルへの期待と多様な形の愛を尊重する社会の雰囲気がBLドラマの拡散を促進したのではないか」と話していた。
そうは言っても、BLというジャンルを韓国の地上波で大々的に放送するにはまだ時間がかかるかもしれない。韓国の民間放送局SBSは2月、旧正月の連休特選映画として、イギリスのロックバンド・クイーンの伝記『ボヘミアン・ラプソディ』を放送したが、男性同士のキスシーンをカットし、映画ファンらが反発するという騒ぎもあった。
低予算ではあるものの、地上波放送に比べ表現が自由なウェブドラマ市場では、BLドラマの制作が当分続くようだ。2月末には現代舞踊家と消費者金融業者の恋愛を描いた『You make me Dance』がアジア同時公開予定で、2018年に電子本サイトのBLウェブ小説部門で大賞を受賞した『Semantic Error』のウェブドラマ制作も決まった。BLは中国や東南アジアで特に人気が高いようで、韓国では「次にヒットする韓流」として力を入れているようだ。
【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。