師匠たち3人が見せる破天荒な芸風と、ホステスたちをいつのまにか味方につけてしまう、屈折した人柄の魅力は、そのまま小説の魅力になっている。

「3人とも一筋縄ではいかないし、順風満帆で生きてきた人たちでもないけど、前向きだし、だれかに意地悪なことを言ったりもしない。人に頼らない彼らのつよさに、書きながら私がいちばん励まされていた気がします」

 この小説はまた、章介の成長物語でもある。ソコ・シャネルたちに助けられて、思いもよらない方法で父親の遺骨をしかるべき場所に納め、自分の過去と、ある意味、けじめをつける一歩を踏み出す。

 行きずりとも言える関係でしかない章介に、3人が示すのは無償の優しさだ。

「章介が期待しないからかな……。考えてみたら私、視点人物を人に期待しない人間にしますね。私自身、小説の世界で自分を生み直したような気がしているので、そういう意味で章介は私かもしれません」

【プロフィール】
桜木紫乃(さくらぎ・しの)/1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞。2007年に同作を収録した単行本『氷平線』を刊行。2013年『ラブレス』で島清恋愛文学賞を受賞。同年『ホテルローヤル』で直木賞を受賞。2020年『家族じまい』で中央公論文芸賞を受賞。ほかに『ワン・モア』『砂上』『起終点駅 ターミナル』『無垢の領域』『蛇行する月』『緋の河』など著書多数。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2021年4月1日号

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