リンちゃんのこの笑顔が奪われてしまった。

リンちゃんのこの笑顔が奪われてしまった。

「松戸市で行われたリンの葬儀で、ハオは座っているのがやっとという感じで気力がなかった。トゥーは何が起きているのか分からない様子で、斎場内をうろうろしていました。リンの遺体をベトナムに搬送するのにお金がかかるというので、少しでも足しになればと募金活動を家族で始め、約50万円集まりました」

 葬儀後、リンちゃんの遺体埋葬のため、ハオさん一家はベトナムに一時帰省。その間、鍵を渡されていた渡辺さんは毎朝晩、リンちゃんにご飯をお供えし、焼香した。ハオさん一家が日本に戻って以降は、松戸市に経済的な支援の要請に行き、澁谷被告に極刑を求める署名活動も手伝った。ハオさん一家がベトナム帰省時には空港へ送り迎えをし、どちらかの家での食事会も重ね、事件発生からの4年間、ハオさん夫妻と子供の成長を誰よりも見守ってきた。

 今年2月半ばのベトナムの旧正月「テト」にハオさん宅で開かれた食事会では、テーブルの上に色とりどりのベトナム料理が並び、7歳の誕生日を迎えたトゥー君にケーキをプレゼントした。

〈とぅーくん おたんじょうびおめでとう!プレゼントはどうぶつえんにいくことです。たのしみにしていてね〉

 渡辺さんの長女がトゥー君に渡したカードのメッセージだ。動物園は、ハオさんがリンちゃんをよく遊びに連れて行った思い出の場所でもある。食事会には私も同席していたが、この時ばかりはハオさんも顔をほころばせていた。

 事件後、ハオさん宅には「日本人として申し訳ない」といった手紙や花束がたくさん届いた。それを機にハオさんとつながり、支援を続けている人がいる。サービス業に従事する都内在住の佐藤学さん(68歳、仮名)は、事件発生から間もなく、水道橋駅のホームでハオさんらしき人物を偶然見掛けた。相手はマスクをしていたが、報道で見たあの顔に間違いないと運命を感じ、ネットでハオさん宅の住所を調べて生花を贈った。間もなくお礼の手紙が届き、松戸市のハオさん宅へ足を運んだ。以来、毎月のように自宅から2時間近くかけて訪問し、トゥー君におもちゃを買ったり、ハオさんと食事をしたりと親交を深めてきた。

「私も若い頃、ブラジルやアメリカで長年生活をしていました。特にブラジルの首都サンパウロではホールドアップに遭うなど危ない経験をしたから、異国の地で生活をする大変さは身に沁みて理解していた。そんな思いもあり、また子供が被害に遭うという痛ましい事件だっただけに、ハオさんを応援したい気持ちが芽生えました」

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