佐藤さんは事件が発生した年の夏には、ベトナムへ飛び、リンちゃんが眠る墓で手を合わせた。澁谷被告に極刑を求める署名活動では、ハオさんと一緒に街頭に立ち、署名を呼び掛けた。その集計も手伝った。グエンさんらがベトナムに一時帰省し、ハオさんが1人日本に残っている時のやるせない姿は、今も脳裏に焼き付いているという。
「正月におせちを持っていった時のことです。ハオさんは落ち着かないのか、食器を箸でカンカンと叩き、精神的にまいっている様子でした。やはりハオさんには家族がいないとダメだなと。正直、ベトナムに帰った方がいいのではと心配しましたが、友人としては日本に残って欲しいという相反する気持ちがありました。私もここまで応援してきた以上、今後も続けていこうと思います」
リンちゃんの遺体遺棄現場となった千葉県我孫子市北新田の排水路脇には、ハオさんが組み立てた祠(ほこら)が建ち、リンちゃんが好きなピンク色に染まっている。中にはリンちゃんの遺影、ぬいぐるみや人形、ジュースやお菓子などが供えられている。ハオさんは毎月命日の24日にそこを訪れ、献花と焼香をする。
お供え物はたまに取り替えられ、掃除も行き届いている。夜にはライトアップもされる。そうした祠の手入れはすべて、別の日本人支援者によるものだ。祠の隣には「リンちゃんが見られるように」と桜の木が植えられ、ぐんぐん成長してハオさんより高くなった。
リンちゃんは生前、「花見をしよう。桜が散っちゃう」とグエンさんにせがんでいたというが、その希望を叶えてくれるかのように、今年もまた、桜の木が見頃を迎えた。
控訴審判決言い渡し後の記者会見で「納得がいかない」と怒りを顕わにし、すでに最高裁への上告を希望する意思を示しているハオさん。その思いがリンちゃんに届く日は、果たして訪れるのだろうか。
取材・文/水谷竹秀(ノンフィクションライター)