社長自らがTOBを持ちかけたとの疑念も
問題は、前述のように、上場維持のためにアクティビストを受け入れておきながら、排除のために上場を廃止することの整合性だ。1部復帰に際し東芝は、
「これもひとえに、株主の皆様をはじめ、これまでお力添えを頂きました多くの皆様方のご支援の賜物と心より感謝申し上げます」
とのコメントを出している。1部上場は一流企業の証であり、そこに復帰できたことを、多くの社員が喜んだ。ところがTOBに応じればせっかく戻った1部どころか、上場企業としての地位も失ってしまう。社員の心境は複雑だ。
そのため「アクティビストに手を焼いた社長がCVCにTOBを持ちかけたのでは」と語る東芝の社員もいる。車谷社長は東芝に来る前、CVCの日本法人代表取締役会長を務めていたことから出てきた疑念だ。自らの経営の自由度を高めるために古巣に協力を仰いだというのである。
さらには「自らの地位を維持するためではないか」という声も聞いた。昨年の株主総会ではギリギリ社長の座を守ったが、「東芝が幹部社員に対して行った調査では、車谷社長への不信任が半数を超え、その結果は3月中に車谷氏にも伝えられた」との報道もある。
東芝の車谷暢昭社長(時事通信フォト)
これが事実なら、今年の株主総会での再任は相当厳しいものになる。しかしTOBが成立すれば、東芝はCVCの子会社になる。そうなればCVCは車谷氏を信任するという推測だ。
異例の社長復帰が有力視されている綱川智氏(EPA=時事通信フォト)
そのためか、経営陣の間でもTOBへの対応で亀裂が生じていたという。それを受けてか4月14日午前に行われる臨時取締役会で車谷氏は辞任し、後任は綱川智氏が就任する見通しだ。綱川氏は前回の社長時代、アクティビストを受け入れた張本人でもある。今後、物言う株主とどのような関係を築いていくのか。それとも上場廃止の道を選ぶのか。東芝の迷走は続く。
(敬称略)
●文/関慎夫(雑誌『経済界』編集局長)