「僕も幾つか内出血密室の話は書いていますけど、今回は密室云々より血文字と組み合わせた点が新しいと思う。ダイイングメッセージって捏造もされやすいし、何の証拠にもならないことがほとんどなんですよ。その信憑性が内出血密室の場合は上がるとか、既存の枠組みに自分なりの更新を施すわけですけど、リスペクトはあるのかなあ……。
それより何より、人と同じ手は二度と使えないという切羽詰まった状況の中で、何とかアイデアを日々捻り出しているだけという方が正確な気もします(苦笑)」
その論理を以て人を楽しませ、伝統と革新の両立をも実現する姿勢が、何より健全で贅沢で面白いのである。
【プロフィール】
東川篤哉(ひがしがわ・とくや)/1968年尾道生まれ。岡山大学法学部卒。1996年より『本格推理』等に短編を発表し、2002年に新人発掘プロジェクト・KAPPA-ONEにて『密室の鍵貸します』でデビュー。烏賊川市シリーズや鯉ヶ窪学園シリーズなど多くの人気シリーズを持ち、2011年『謎解きはディナーのあとで』で第8回本屋大賞第1位。櫻井翔・北川景子出演で映像化もされた。他に『館島』『もう誘拐なんてしない』等。2017年より本格ミステリ作家クラブ第5代会長。165m、64kg、O型。
構成/橋本紀子 撮影/喜多村みか
※週刊ポスト2021年4月16・23日号