“ほっこりの箱”に、入れないで
――俊夫が自分の性欲に思いを巡らせるシーンもあります。「ないわけじゃないんだけど」と淡々としていて。
オカヤ:そんなにみんな頭のなか性欲でいっぱいじゃないよね?って気がしちゃって、そうであってほしいという願望が入っているのかもしれません。
――アセクシャルな若者も増えているようですし、他にも令和っぽいトピックが自然に盛り込まれていると感じました。その辺りはいかがでしょう?
オカヤ:社会派になれないコンプレックスみたいなのはずっとあるんです。食べ物のことばかり描いてきたからか、ほのぼのした人だと思われることがあって、うっかりすると「ほっこり」の箱に入れられそうになるんです。そういうところから遠い所にいる人間なんですよ、という思いが出たのかもしれません。
――ほっこりではないですよね。苦みも、涙も、笑いもあると思います。
オカヤ:よかったです。『白木蓮』なんかはちょっと事件っぽくしようと思って始めたのですが、あまりそうならなかったので。
――最初に読み手が突き付けられた謎は大きいですよ。40年間会っていなかった同級生が、なぜ遺言を残したのか?という。
オカヤ:結局、そんなこともあるよね、みたいになってしまいましたが(笑)。でも、出会った人全てとの関係を大事にできるわけではないし、なかには長らく会っていなくても、「あの人いたよな」と思い続ける人っていると思うんです。
とても小さなコミュニティのなかで暮らし続けている人は、疎遠にならないのかなと思いますけど……。自分が都会的な人間だという自覚はあるんです。アーバンという意味ではなく、知らない人が周りにたくさんいる状況に慣れていて、その状況に安心できるというか。
――そういえば、子どもの頃に寂しさを感じると、駅前とか人がたくさんいるところに行って、焚火にあたるみたいに人にあたっていたという人がいました。
オカヤ:ああ、それは分かるかもしれない。私のようにいつでもどこでも部屋着のような恰好をしている人間は、歌舞伎町とかの歓楽街では声をかけられないんです。出勤に見えないし、ホストの客っぽくもないし、それがラクで行く時がありますから。