受け取れたのは特別定額給付金だけだった(イメージ、時事通信フォト)

受け取れたのは特別定額給付金だけだった(イメージ、時事通信フォト)

 藤田さんがいう「協力金(感染拡大防止協力金)」と、持続化給付金は別である。前者は緊急事態宣言下の休業、時短営業について地方自治体から支払われる協力金であり、後者は国が支給する「事業の継続を支え、再起の糧として、事業全般に広く使える給付金」である。藤田さんは、いずれも受け取ることが出来ていない。裁判で争われているのはこのうち、国が支給する持続化給付金についてである。

 そこでの国の主張は、その業界で働く人たちにとって残酷な内容だった。感染拡大防止のために仕事をするな、でも金は払わないし事業が継続される必要もない、と宣告されたと受け取らざるをえず、暗い気持ちにさせられたという。

「国民全員に配られた一律の給付金は受け取りましたが、それ以外については、私は何ももらえていない。申請以前に、どこに問い合わせをしても門前払い。窓口の担当者に接客業と言うと、どんな接客かと詳しく聞かれ、性風俗というと『あー』と鼻で笑われたこともある。子供も育てていて、懸命に働いています。税金も払っています。なのになぜ……」

 埼玉県内在住の性風俗店従業員・持田真由美さん(仮名・20代)は、冒頭の「国の主張」をネットニュースで見て絶句した。元々、人材派遣会社に登録し工場で働いていたが、身篭ったことで就業が困難になった。派遣社員に産休はない、と会社に言われたためだ。子供の父親は妊娠がわかった直後に連絡が取れなくなったが、産まれてくる子供に罪はないと思い、出産を決意した。頼れる親族も近くにおらず、食べるため、子供の生活のために始めたのが風俗店での仕事だった。

「お店で働く人のほとんどが、さまざまな事情からやむを得なく働いている状況。ひとり親や困窮家庭を支援する策がないからです。それなのに不健全と言い切るなんて、人間として認められていないとしか感じません」(持田さん)

 働くために子供を預ける場所を探していた持田さんの場合、公立の保育園や幼稚園の抽選にも漏れ、保育料が高い民間の認可外保育施設を利用せざるを得ず、それに見合った収入が必要になった。ところが、事務職など一般的な昼の仕事では子育てしながらでは給与が低く抑えられてしまう。それでは最低限度の生活ができる見込みも立たないため、比較的高給な業界を選ばざるを得なかった。

 正直なところ、給付してもらえるなら欲しいと今も思っている。だが、その願いを自分で訴える余力はない。目の前の生活で精一杯なのだ。

「今回の訴えのように、風俗業従事者で必死に声をあげる人たちは少ない。もう諦めたという事でしょう。私にできることは、今も働いてお金を稼ぎ、子供を育てること。感染に怯える前に、今日を生き抜くしかありません」(持田さん)

 大きな目標で言えば、給付金は「感染拡大防止」と「終息」を目指すための政策だというならば、業種にかかわらず広く支給されるものだと思っていたし、期待もしていた。そのぶん落胆させられたが、子供を育てるためには嘆きも怯えも振り払い、働くしかない。

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい続けるなか、もともと大きな資産を持つ人はさらに豊かになり、コツコツと労働を積み重ねることで暮らしてきた人たちが苦境に追い込まれている。目の前の生活のために必死で働く人を助ける仕組みが作られることに、反対する人はいないだろう。しかし、現実は性善説通りにいかないのか。

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