家事もそつなくこなす。(c)テレビ朝日
ヒットの背景には、「この時代だからこそ刺さるもの」
筆者が取材してきた貧困状態にある女性の多くがシングルマザーだ。その大きな理由のひとつは、働く時間が制約されるから。子どもがいると正社員として採用されないことも多く、子供の発熱など急に休まざるを得ないこともある。そういった事態に対応できるが賃金は低いアルバイトの仕事に就いたり、トリプルワークをしたり、仕事を辞めざるを得なくなった、と語る人も多かった。
そんな状況になってしまうのは、子どもを見てくれる大人がいないことや、ちょっとしたひとことを語り合う人が少ないことも挙げられる。特に都市部では隣人がどんな人物かわからず、地域に顔見知りが一人もいない。そのような状況で、子どもを育てていると、イライラの矛先は弱い者(=子ども)に向かうことは容易に想像がつく。
『コタローは1人暮らし』は、老成した5歳児、基本的に善良なアパートの住人が織りなすファンタジーかもしれない。でも、子ども自身が家事能力とコミュニケーション能力、そして自衛のための勇気を持っていれば、子どもがいることで苦しむ親、親によって苦しめられる子供の関係が変わるのではないかと気づきをもたらしてくれる。
ちなみに、原作は『電子コミック大賞2018』男性部門賞を受賞。現在7巻の累計部数は115万部突破。そのヒットの背景には、子どもを取り巻く環境を何とかしたいと願う人の思いがそれだけあるようにも感じた。
ドラマの登場人物はまさに原作のイメージ通りで、それぞれのキャストが、キャラクターに命を吹き込んでおり、優しい気持ちが広がっていく。親切の押し売りやおせっかいではなく、人と人とがそれぞれを尊重しながらも必要とし、必要とされていると感じて寄り添い合う。何かと心がギスギスしてしまう昨今、見ていると、心がホッとするのだ。
加えて作品の根底には、家族や母親への思慕が流れている。大人は母への思慕やさみしさをがまんしたり、ごまかしたりするが、子どもはそれが素直に出てしまう。その気持ちに気づいて、狩野はコタローにそっと寄り添う。その2人の関係性が、演技とは思えないほど自然で、心がキュッとするが、やがてじんわりあたたかくなってくる。
ドラマの放送は、土曜から日曜に曜日が切り替わる時間帯だ。「すごくあったかい時間が流れていて、この時代だからこそ刺さるものがすごく詰まっています」(横山)というように、週の終わりに、優しい世界に浸り、心をリセットするのもいいかもしれない。
◆文/沢木文