3度目の緊急事態宣言が発令され、休業した店舗が並ぶ東京・新宿の飲食街。新型コロナウイルスの感染拡大で、政府は5月11日までの17日間、大型商業施設、酒類やカラオケを提供する飲食店に休業を要請(時事通信フォト)
バイト2つを掛け持ちしていたときはフルで入って20万以上は稼げたという。足立区の古いアパート住まいなので家賃は安いし駅から遠くても中古で買った10年落ちの110ccスクーターがあれば不自由はない。この相棒がいるから手っ取り早くウーバーという選択肢ということか。都内でウーバー配達なら30km制限も2段階右折もない原付2種は最強だ。
「はい。休みが明ければ店も再開してバイトは続けられますから。あくまでウーバーは来月分の足しになればって感じです」
足立なら埼玉も近いし聞けばバイト先は大手居酒屋チェーン、ゴールデンウィーク中は埼玉の他店舗にまわしてもらうことはできないのだろうか。
「断られました。埼玉(の店)も時短営業で売り上げ厳しいからバイトはいらないって。暇だし売り上げもないから社員でまわすしかないんでしょうね」
長引くコロナ禍、非正規労働者を切って正規労働者を維持する事業者が飲食、小売を中心に拡大している。じつのところ、2019年までは非正規に限れば労働者の売り手市場であり、とくに若者は極端な少子化と若者重用の求人市場にあってバイト先は選び放題であった。
「そうなんです。まさかコロナになるなんて、こんなに長引くなんて思いませんでした。これなら(新卒で入った)会社を辞めなきゃよかったと思います」
筆者は昨年から取材や交友のたび正社員の方に「絶対に辞めてはいけませんよ、死んでもしがみついてください」と忠告している。コロナ禍の理不尽な出社やクライアント対応、不機嫌な会社と人間関係に辟易しているサラリーマンは多いだろうが、特殊な能力で糧を得ている者や代々の資産家ならともかく、何であれ一定金額が降ってくる身というのは先行き不透明な疫禍において絶対に手放してはならない地位だ。あえて地位と言わせてもらったが、日本における一般市民にとっての唯一まともな社会保障こそ「正社員」である。まともな社会保障を手放してはならない。
「そういうのって学校は教えてくれないんですよね。放り出されたあとに自分で知るしかないわけで。好きと出来るは違うんですよね」
好きと出来る ―― トリキさんがフリーターを続けるには夢があったのだろう。その「好き」と「出来ないこと」は教えてはくれなかったが、何も果たせないまま生活するだけ、東京にしがみつくだけだという。そうは言っても彼はまだ20代、コロナ禍とはいえ十分に挽回のチャンスはある。幸いにして少子化は解消されていない。20代なら何処かしら採用してくれるはずだ。
「何をしたらいいかわかんないんです。自分に向く仕事もわかりません。食いつなぐのにどうしたらしか考えられません、コロナがある意味、潮時を教えてくれたというか」