現場で「工期」が最優先されるのは周知の事実。納期通り、もしくは納期より早めに工事を完了させれば、諸費用も浮く。しかし、則武物件の現場で起きていたのは「過剰」としか言いようがない、納期優先のみを追求した杜撰な工事。なぜそこまでして急ぐ必要があったのか。
「則武さんの物件のほとんどは、いわゆる投資用のアパートでした。この数年の間に、関東エリアで100を超える物件を手がけており、もしかしたら、そのほとんどで同じような問題が起きているかもしれません」
こう話すのは、神奈川県内の建設会社幹部(50代)。則武地所施工の物件は、いずれもデザイン性が高く、若者を中心に人気だった時期もあったと振り返る。しかし、「投資用物件」だったからこそ、今回の問題が起きたと指摘する。
「数年前、利回りの良さから不動産投資が加熱したことがありましたよね。でも、そんな時期も今は昔のこと。スルガ銀行、かぼちゃの馬車、それにレオパレスなど、投資用物件やサブリースの問題が次々に明るみに出て、業界は冷え切っていました。則武も同じような商売をしており、結局ボロが出たということでしょう」(建設会社幹部)
投資家オーナーが金融機関から融資をうけてアパートを買い、それを事業者にリースする。事業者は入居者を募り、オーナーは複雑な管理業務に煩わされずにリース事業者から融資の返済金額を上回る収入が得られるというのが「サブリース」の大まかな仕組みだ。オーナーに対し、家賃保証をうたい文句にした事業者も多かった。当然、投資家に安定した利益をもたらすと高い人気を誇っていたが、女性用シェアハウス「かぼちゃの馬車」など、サブリース事業を展開していたスマートデイズ社が、投資家にリターンを戻せなくなり破産した。
そもそも、入居者が思うように集まらず、オーナーの要望を押さえ込んで家賃減額を行いながら、次々に新規物件を建設していた。その急いで建てられた物件は、多くが杜撰な工事で建てられていた。住む人を集められない物件を増やし続けた最後は自転車操業に陥り、結果的に建設資金を融資してもらった、つまり借金をしたオーナーが騙された、という形になった。かつて破たんしたサブリース業者のアパート建築現場について聞いていた様子と、則武の現場は似たような雰囲気になっていたという。
「質が悪く安い物件をバンバン売って利益を上げるのが、近年の則武のスタイル。工事現場では、杜撰な工事を見かねた関係者が社員に上申することもありましたが『誰も損はしない』と聞き入れてくれなかったそうです」(建設会社幹部)
東京都内に住む無職・鎌田誠さん(60代)は「則武物件」のオーナー。知り合いの不動産屋を介し、絶対に儲かる話があると言われて紹介されたのが、則武の社員だった。