安全性か、スピードか
KMバイオロジクスは「不活化ワクチン」の開発に挑んでいる。
mRNAワクチンやDNAワクチンなど遺伝子を使用するタイプとは異なり、不活化ワクチンは、感染性や病原性を消失させたウイルスそのものを体内に注入し、免疫反応を誘導する。
「最も古いタイプのワクチンのひとつで、KMバイオロジクスには同様の手法で日本脳炎のワクチンなどを製造した実績があります。歴史が古く、同タイプのワクチンが多く作られているため安全性の面で信頼度が高いと言えます。
欠点は、ウイルスそのものを培養するので製造に時間がかかること。これまでの不活化ワクチンの例を考えると、mRNAタイプより有効率が落ちる可能性があります」(森内氏)
KMバイオロジクスの広報担当者は安全性に自信を見せる。
「一般的に不活化ワクチンの副反応のほとんどは接種した部分の腫れや痛み程度で、全身性の症状が出ることはまれ。現時点では重篤な副反応は確認されていません。予測される副反応は限定的だと考えています」
5月10日の決算説明会で「年内にも供給を始めたい」と宣言した塩野義製薬と武田薬品工業(ノババックス)が開発を進めるのは「組み換えたんぱく質ワクチン」だ。
「遺伝子組み換え技術を使って合成したコロナウイルスのたんぱく質を打ち込むことで、免疫反応を呼び起こします。B型肝炎ウイルスワクチンで用いられる手法で、実績があり安全面も期待できますが、不活化ワクチンと同様にmRNAタイプのワクチンより有効性は落ちる可能性があります」(森内氏)
しかし、不活化ワクチンと組み換えたんぱく質ワクチンはmRNAワクチンがマイナス90度やマイナス20度で管理する必要があるのに対し、2~8度で保管できる設計のため、医療機関の設備投資のハードルが低いという利点がある。
なお国内では、アストラゼネカと同じ「ウイルスベクターワクチン」は開発のメドが立っていない。臨床試験受託大手のアイロムグループが、今年5月までに治験を目指していたが、10月以降に先送りになった。
「無害なウイルスにコロナウイルスの遺伝子情報を組み込んで投与するタイプで、過去にエボラウイルスのワクチンとして実用化された。国内で開発が進まないのは技術力や規制など、何らかの障壁があるからと考えられます」(勝田氏)