スポーツ

井上尚弥に4回負けた「高校教師ボクサー」 金メダルへの思い

教員として、ボクシング部を指導しながら五輪出場を目指してきた田中亮明(写真/本人提供)

弟はプロ、自身は井上尚弥と4回対戦経験があるボクサー・田中亮明選手(写真/本人提供)

 コロナの混乱のなか開幕が迫る東京五輪。知名度の高いプロ選手たちばかりに注目が集まるが、そもそもオリンピックは有名アスリートのためだけのものではない。出場予定選手の中には、「アスリート」とは別の顔を持ちながら、練習を続けてきた人がいる。本業として母校の中京高校で教員を務め、ボクシング部の指導をしながら五輪を目指してきた男子ボクシングの田中亮明選手は、「二足のわらじ」アスリートのひとりだ。

 * * *
 6月の猛暑日、岐阜県の中京高校ボクシング部のジムに、その男の姿はあった。

 東京五輪のボクシング男子フライ級代表の田中亮明(27)は、母校である同校の通信制課程で教員を務め、ボクシング部の顧問として高校生と共に汗を流してきた。学校がテスト期間中のこの日は、ムンムンとするジム内でトレーナーの父が持つミットに鋭く小気味よいパンチを打ち込んでいた。

「2018年まで教壇に立っていましたが、翌年から通信制課程に異動し、デスクワークが中心となった。平日は朝8時45分から16時まで勤務し、そのあと指導です。無駄な時間を作らず、練習は効率的にやっています。母校のリングで生徒とマススパーをすることもあるし、弟の(所属する畑中)ジムで弟とスパーリングをすることもあります」

 2歳下の弟は、プロボクシングで3階級制覇を達成した田中恒成である。昨年末、井岡一翔の持つWBOスーパーフライ級王座に挑戦し、敗れはしたものの、日本を代表するボクサーのひとりだ。そして、もうひとり、田中を語る上で欠かせないのが同い年の井上尚弥の存在だろう。今では世界の“モンスター”として君臨するWBA&IBFバンタム級統一王者とは、井上が高校時代に4度対戦し、そのすべてで敗れた。

 プロのリングに飛び込み、きら星のような輝きをみせるふたりと違う道を田中は歩み、駒澤大学に進学して五輪の夢を追ってきた。

「プロに興味がなかったんですよね……」

 そう田中は囁いた。そして続けた。

「自分がなりたかったのはオリンピック選手だった。(オリンピックの魅力とは)……特にないかな。『オリンピックに出る』と口に出したからには、その目標を叶えたい。それだけですよ。ボクシングを始めて、高校日本一になるためにこの学校に入学して、次は大学に入ってアマチュア日本一を目指した。それを達成すると、オリンピックに出たいと思うようになった」

 2016年のリオ五輪は、世界最終予選であと1勝したら切符を手にできるところまでたどり着いた。が、あと一歩、届かなかった。

「それが悔しくて。そこからは意地になってボクシングを続けて来た。そりゃあ、オリンピックに出て金メダルを獲るよりもプロのリングで世界チャンピオンになったほうがお金は稼げる。でも、それがプロになる理由にはならなかった。プロに一度でも気持ちが傾いていたなら、間違いなくなっていたでしょうから」

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン