顧問を務めるボクシング部では、部員とともに練習することでエネルギーをもらうことも(写真/本人提供)

ボクシング部を指導、金メダルを目指す田中選手(写真/本人提供)

 一度口にしたことを必ず実現するという強い意思を抱くような男なら、井上に敗れたまま別の道に進むことにも抵抗があったのではないだろうか。

「僕はずっと井上選手を意識して練習していました。途中で階級を変えても良かったんですけど、『井上選手に勝ちたい』という気持ちが強くなってきちゃった。当時から突き抜けたボクサーだったと思いますよ。ただ、4回やって、4回負けても、次は勝てると思っていました。結局、井上選手がいたから高校チャンピオンになれず、彼はプロにいっちゃった。別に僕が逃げたわけじゃないし、彼がいなくなっただけなので、彼に勝ちたいと思うことはなくなりました(笑)」

 他人に振り回されず、ボクサーとしての矜恃を抱いて、我が道をゆく。そうした田中の生き方が言葉にあらわれる。

「マイペースなんですよ。自分のやりたいことを淡々とやってきた」

 東京五輪が1年延期となってからは、これまで積極的には取り組んでこなかったフィジカルトレーニングに力を入れてきた。ボクシングは対戦相手と“濃厚接触”となる距離で拳を交えるために、例年に比べスパーリングの回数は減り、弟とすることが多くなった。コロナの感染拡大によって、学校が閉鎖された時期には畑中ジムやスポンサーが保有するフットサル場などでも練習を積み、五輪仕様の肉体に仕上げてきた。

 プロボクシングだと、世界戦なら3分12ラウンドを戦うが、アマチュアボクシングだと3分3ラウンドと短く、戦い方は大きく異なる。さらに、トーナメント形式だから数日間にわたって試合があり、フライ級の田中の場合、52キロの体重をキープしなければならない。

「プロのように相手の様子を見たり、探り合う時間がない。展開が早く、初回のゴングから『よーいドン!』でぶつかり合う。プロとアマチュアのボクシングはまるで違う競技です。ただ、僕の理想は、一発のパンチで倒してKO勝利。そのスタイルは貫きたい」

 2019年の全日本選手権52キロ級で優勝し、昨年3月に開催国枠で東京五輪に出場することが決まり、ひとつ、夢をかなえた。

「次は金メダルを獲りたいという新しい目標ができた。東京でそれが達成できたなら、プロになりたいと思うかも知れないし、パリまでアマチュアを続けたいと思うかもしれない。それはわからない」

 弟や井上が腰に巻いた世界王座のベルトに勝るとも劣らぬ輝きを放つ金メダルを手にしたい。今はそれだけを考えている。

■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)

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