圧倒的なシェアを持つトップ企業には及ばないが、熱心なファンに支えられている企業は数多い。スナック菓子業界でいえば、ここ数年ポテトチップスのヒット商品を連発している湖池屋がそうだ。社長が「彼女がダメと言ったものは出せない」と公言するほど全幅の信頼を置いているのが、湖池屋マーケティング部次長を務める野間和香奈氏だ。本人インタビューから“凄腕マーケター”の発想法や仕事術に迫った。
──ポテトチップス(以下ポテチ)のシェアはざっくり、ガリバーのカルビーが7割強、湖池屋は2割強と言われていますが、ここ数年、湖池屋はヒット商品が多いですね。
野間:湖池屋のファンって、そもそもこだわりの強い方が多いんですよ。私自身、人と違ったもののほうがいいという考えがベースにあって、みんなと同じではつまらないと思っています。
もう7、8年前になりますが、当社のロングセラー商品である「のり塩」のファンだけを集めた座談会をやったことがありましてね。たまたま、その座談会で私が司会進行役を務めたのですが、会場で熱烈なファンの方々の生の声を聞いて、ブランドの大切さを改めて感じました。
参加したある方が、こう言われたんです。「『のり塩』が大好きで、楽しい時間はもちろん、伴侶を亡くした悲しい時にも『のり塩』が傍らで寄り添ってくれました」と。スナック菓子でも消費者の人生に寄り添うことができるということを再認識しました。
もちろん、マス市場向けの優等生的な商品も出しますが、一面的なマーケティングでなく、縦横斜めから立体的に商品企画を考え、さまざまな形で顧客接点を増やしています。より面白く、より美味しそうに、より楽しく過ごしていただけるようにするのもマーケティングチームの腕の見せ所です。
ポテチの「味付け合戦」から脱却
──これまで他社商品も含めて、フレーバーの数で言えば数え切れないほどのポテチ商品がスーパーやコンビニに並んできました。
野間:確かに、以前はどのメーカーがどんな味付けのポテチを出すかの競争に終始していた面は否定できません。正直、味の提案合戦で疲弊した部分もありました。
でも、当社ではここ数年、たとえばじゃがいもの揚げ方やじゃがいもの味の残し方なども含め、本当に美味しいポテチとはどんな商品なのかを、じっくり議論できるようになったのです。さまざまなお客様の、どんな気持ちに寄り添えるのかというテーマで商品企画を区切っていくことが多くなり、寄り添う点は味以外にも広がっています。
たとえば「じゃがいも心地 オホーツクの塩と岩塩」は、大人の女性がゆったりしたい時に食べていただく想定です。商品パッケージのデザインも少しイノセント(無垢な)感じにまとめ、カラーも落ち着いたペールブルーを採用し、包装デザインでゆったりした気分を表現しました。袋のカラーにメインの黄色と赤を使っている、「のり塩」のようなポップで元気が出る色使いの商品と「じゃがいも心地」は、ある意味対極の商品になっています。
商品の品質はもちろん、お客様にお買い上げいただいた時の気分や気持ちにどう寄り添うことができるか。現代の言葉で言えば消費者インサイトですが、そこをよく考えていく点は、かつてとは大きく変わってきていると思います。