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ちあきなおみ「私は夫のために歌っていた」29年姿を現さない理由

ちあきなおみ

『夜へ急ぐ人』の振り付けは鬼気迫るものが。後年、一青窈や大竹しのぶがカバーしている(写真提供/石田伸也さん)

 突然、1992年に歌手活動を休止したにもかかわらず、いまもカムバックを望む声が絶えることがない、ちあきなおみ(73才)。昭和歌謡ブームも手伝って、彼女を知らないはずの若い世代からも絶大な支持を集めている。なぜ彼女の歌声は多くの人々を魅了し続けるのだろうか。

「再出発」夫との新生活に踏み出す

 ポップス、ジャズ、ファド(ポルトガルの民謡)など、あらゆるジャンルを歌いこなすちあきだったが、長年所属した事務所から離れ、1978年にレコード会社『コロムビア』との契約を解除すると、表立った活動からも遠のいていく。

 私生活では、同年に俳優の郷えい治さん(享年55、『えい』は金へんに英)さんと入籍。活動休止前の最後のマネジャーを務めた古賀慎一郎さんは、ちあきのこんな言葉を聞いている。

「あのときはレコード会社と(郷さんとの結婚で)もめて会社を辞め、しばらく休もうと思った。まぁいい機会だから、そのついでに結婚もしたの。“ついで”なんて言ったら、郷さんに怒られちゃうわね」

 表舞台から離れていた間、ちあきは郷さんがオーナーを務めていた喫茶『COREDO』を手伝っていた。郷さんがコーヒーを淹れ、ちあきが客席に運ぶ。驚きの光景ではあったが、この頃のふたりは、静かに慎ましやかに過ごしていた。

 が、市井で静かな日々を送っていたちあきを、再び時代が呼び戻す。シングルレコード『酒場川』(1976年発売)のB面収録曲『矢切の渡し』に突然、注目が集まったのだ。

 きっかけは梅沢富美男(70才)。下町の玉三郎として人気を博していた梅沢が、公演でちあきの『矢切の渡し』に合わせて踊っていたことが話題になり、同曲が有線チャート1位に。だがこのとき、ちあきは「前のレコード会社のこと」を理由にいっさい歌わずほかの歌手が次々と競作。細川たかしはこの楽曲で日本レコード大賞を受賞することになる。

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