作詞・吉田旺さん、作曲・船村徹さんでコンビを組んだ『紅とんぼ』で11年ぶりに紅白に出場した(写真提供/石田伸也さん)
「沈黙」29年間、姿を現さない理由
表舞台から姿を消してから29年。その間、幾度も特番が組まれ、ベスト盤が何枚も発売された。『星影の小径』や『黄昏のビギン』はCMソングとして起用され、毎年のように“紅白復帰説”が流れた。
しかし、彼女は沈黙を守り続けたままだ。
「本心を勝手に計ることはできませんが、そこには、ちあきさんならではのこだわりと美学がある」と、ジャーナリストの石田伸也さんは言う。
「ちあきさんは、レコーディングのときはブースに幕を張って、歌っている姿を一切見せないほどの完璧主義。自分自身の中で100点を取れなければ許せないのかもしれません」
いまなお、「もう一度、歌ってほしい」という声もあるが、「そっとしておいてあげたい」という声もある。ちなみに名曲『夜へ急ぐ人』を提供した歌手の友川カズキもその1人だ。
「ちあきさんが決めたことだから、そっとしておいてあげたい。だって郷さんという大きな存在を失って、また歌えっていうのは、酷だと思うんですよ」(友川)
ちあきにとって歌はどういう存在なのか。前出・古賀さんは、次のように推測する。
「以前、『ちあきさんにとって歌って何なんですか?』と、尋ねたことがあるのですが、『死ぬときにわかる』と言っていた。ちあきさんにとって、歌は音色に乗せて歌うものではなく、人生そのもの。だから、沈黙自体も歌なのだと思います」
生き方すべてが歌。だからこそ、彼女の歌は深く、長く人々の心を揺さぶり続けるのかもしれない。
取材・文/廉屋友美乃 取材/藤岡加奈子 写真・資料提供/石田伸也 写真/共同通信社 本誌写真部 参考文献/『ちあきなおみ 喝采、蘇る。』(石田伸也・徳間書店)、『ちあきなおみ 沈黙の理由』(古賀慎一郎・新潮社)
※女性セブン2021年7月1・8日号