「二つの中国」から始まった戦後

 少し、歴史を遡ってみる。1945年、第二次世界大戦が日本の降伏により終結すると、中国大陸では蒋介石率いる中国国民党と毛沢東率いる中国共産党の内戦(国共内戦)が再開された。敗れた蒋介石が台湾に逃げ込んだところ、アメリカの介入を恐れる毛沢東は深追いを避け、ここに中国大陸全土を実効支配する中華人民共和国(「中国」)と、台湾から大陸奪還の機会をうかがう中華民国政府という、「二つの中国」が対峙する情勢が生まれた。

 中華民国はアメリカの全面支持のもと、国連をはじめ、あらゆる国際機関で中国代表の席を占めたが、1971年に大きな動きが生じた。東西冷戦が長引く一方、中ソ間の対立が深まるのを見たアメリカのニクソン政権が、「中国」と手を組んでソビエト連邦に対抗するという大胆な同盟の組み換えを選択したのである。1972年のニクソン大統領の訪中後、日本、西ドイツ、ニュージーランドなどの西側諸国が雪崩を打つように「中国」との国交正常化、中華民国との断交へと走り、「中国」と台湾の国際的な立場は逆転した。

 台湾では1949年5月以来、戒厳令が布かれたままで、中国国民党による一党独裁体制が続けられていた。蒋介石の後を継いだ蒋経国も「一つの中国」に固執したことから、中華民国ではなく台湾として独立を宣言するという発想はなく、中国代表として留まれなければ意味がないとして、追放を宣告されない場合でも、大半の国際機関から自主的に脱退する道を選んだ。

 だが、このときの屈辱とその後の国際社会からの孤立という逆境が、台湾に技術立国への道を歩ませ、世界屈指のIT先進国へと変貌を遂げさせたとも言える。

 1987年7月には世界最長となった戒厳令も解除され、1994年に初の普通選挙、1996年には国家元首である総統の初めての直接選挙が実施されるなど、着々と民主化が進められた。1990年代以降は「中国」との関係改善も進められたが、一方では国名を台湾に改める「正名(名を正す)」運動も公然化した。

 21世紀に入り、台湾の内部では「一つの中国」に固執する声は少数派になりつつあり、2003年にはWTO(世界貿易機関)への加盟を果たした。先のG7においても民主化に成功した稀有な例として台湾を評価する声が高かったからこそ、声明に「台湾海峡」の文字が盛り込まれたのだろう。

 残る問題は中南海(中国共産党指導部)の意向だろう。7月1日の中国共産党創立100周年の記念日を前に、台湾海峡では緊張が高まっている。台湾海峡での武力行使(武力による台湾統一)は「中国」にとって自殺行為──G7声明はそう「中国」に通告しているようだ。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。近著に『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』(青春文庫)、『どの「哲学」と「宗教」が役に立つか』(辰巳出版)などがある。

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