中国版フリマアプリ「閑魚」で売買される水力発電所
かつてないレベルの厳しい規制
というのも、中国で今、厳しい暗号通貨規制が導入されている。まず口火を切ったのは内モンゴル自治区。5月25 日、「内モンゴル自治区発展改革委員会による、暗号通貨マイニング行為の断固打撃及び懲戒に関する8項目の対策」という仰々しい文書が公開された。マイニングから取引まで暗号通貨に関する広範な規制となっている。中にはネットカフェでのマイニング禁止という不思議な内容もある。客が来ない時にゲーミングパソコンを使って暗号通貨を掘っていたネットカフェが、結構あったということなのだろう。まだ、正式決定した条例ではないのだが、これまでに無いレベルで厳しい取り締まりが始まっている。
6月には四川省でも、マイニング禁止令が発令された。大手事業者26社が名指しで取りあげられ、事業をただちに停止するよう求められており、かつてないほどの厳しい姿勢だという。
これまで、中国の暗号通貨規制は2013年と2017年の2回にわたり導入されているが、いずれも取引所の規制が中心で、マイニングはほとんど野放しだった。マイニングで生み出したビットコインを海外の投資家が買えば中国の富が増えるのだから、中国政府もまじめに規制することはないだろうと思われていたのである。
ところが昨年、その風向きが一気に変わった。習近平総書記は国連総会でビデオ演説し、2060年までにカーボンニュートラル(二酸化炭素排出量と除去量を差し引きゼロにすること)を実現すると発表したのだ。
「世界最大の二酸化炭素排出国にして、いまだに排出量増加が続いている中国がなにを言っているの?!」と懐疑的に見る向きもあるが、確かに中国はこれまで、風力発電などの再生可能エネルギー、原子力や天然ガスなどの二酸化炭素排出量が少ないエネルギーの拡充を続けてきた。この流れで規制されたのがマイニングというわけだ。
以前には「水力発電のクリーンエネルギーで作った“クリーン暗号通貨”ならばお上に怒られない」としたり顔で解説していた暗号通貨企業関係者もいたが、ついに規制が始まってしまった。既にマイニング事業者は中国から脱出する動きを始めているという。さらに北京在住の投資家によると、「マイニング機器の海外輸送、引き受けます。プロにお任せ下さい」という、混乱につけこんだ火事場泥棒的なビジネスまで始まっているのだとか。
移転先として取り沙汰されているのは、シェールガスで安く電気が調達できるアメリカ、石油と天然ガスが豊富なカザフスタンなどが中心だという。電気の安さだけで選ぶならば、ベネズエラ、ミャンマー、ラオス、イランなども候補にあがるはずだが、「政情不安の高い国はちょっと怖い」と敬遠されているのだという。中国政府の規制をするするとすり抜ける大胆さは持っている中国マイニング事業者だが、見知らぬ国の情勢は不安で仕方ないらしい。
さて、突然始まった中国の暗号通貨規制は、世界の暗号通貨市場にどのような影響を与えるのだろうか。マイニング事業については中国の事業者がやめても、海外の事業者がいれば問題は起きないし、そのうち海外移転も進んで、元通りとなる可能性が高い。
問題は、中国人投資家が暗号通貨を買いづらくなる点だろう。これまでも規制が入るたびに取引量が激減し、ほとぼりが冷めたら別の仕組みを作って取引を再開するという繰り返しだった。というわけで、しばらくの間は中国の投資家はビットコインなど暗号通貨を買いづらい状況が続く。暗号通貨を持つ投資家にとっては悪材料となるだろう。
【高口康太】
ジャーナリスト。翻訳家。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を行う。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。