勝負を離れたところでは、先生は「笑え笑え」と言われていました。「苦しい時ほど笑わなきゃいかん」という言葉がとても印象に残っています。人間は追い込まれた時にこそ、ユーモアを持たなければいけない。
米長先生は目の前の人間にユーモラスに接して、まず笑わせようとした。それが先生の人生観だったと思います。数え切れないほど宴席にお供したけれど、先生は自分が楽しむんじゃなくて、その場にいる全員が楽しむ場を作るのが上手かった。
当時、政治家の間で流行った風習だと思うのですが、若い頃に宴席で一度、先生とネクタイを交換させていただきました。水玉模様の赤い高級品で、大事な対局の際など、いまでも着けています。
●取材・文/松本博文(将棋ライター)
※週刊ポスト2021年7月9日号