『女性セブン』に連載中の『トラとミケ』の第3巻&LINEスタンプが発売された。今夏にはアニメ化され、Twitterで配信予定だという同作を、小説家の吉川トリコさんが語る。
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『トラとミケ』には、のんびりした時間が流れる街の様子や、人々の触れ合いが描かれています。ただ、1巻、2巻を読んでから、3巻を読むと、ほのぼのとした世界の中に、人の死、病気、貧困、生きていくことの困難さがさりげなく入ってきていることに気がつきます。
この3巻はちょうどコロナ禍に入ってから描かれたものですよね。いまは漫画家も小説家もコロナをどう描くか、すごくいろいろ考えていらっしゃると思うんです。その点、ねこまきさんは作中にコロナを持ち込まないぞって腹を決めたんだなと最初読んだときに思ったのですが、明らかに3巻の肌合いが違う。私の勝手な読み取りかもしれませんが、もしかしたら作者は、こういう形でコロナ後の厳しい社会を反映しようとしているのではないでしょうか。
たとえば、第34話「寒夜の候」でトラが熱を出して寝込むシーン。《実はあんたに内緒で少しお金を貯めてあってなぁ。私に万が一の事があったらそれをあんたの老後の足しにしなさいよ》なんて生々しい発言が急に出てきてドキッとしました。この2人にも確実に死は近づいてきているし、お金の問題もある。戦争中の回想シーンでは死が描かれ、新たに登場した女性はDV夫から逃げてきたシングルマザー。前巻の描写では、古き良き日本が描かれていたのに、このギャップ。でも、何となくいまの社会とリンクする……。
もちろん、作品の中には救いがあります。仮にトラかミケのどちらかが先に旅立ち、ひとり取り残されたとしても、ああやって街に頼れる人たちがいっぱいいれば、生きていけますよね。
脱サラした小説家志望の青年も、小説家の私からすると「賞を獲っても、仕事は辞めちゃダメ!」とハラハラしましたが、大丈夫。彼には、支えてくれる地域社会が下地にある。だからこそ、あの青年は脱サラできたのでしょう。理想の社会がここにはあるんですね。
本書には、名古屋在住の私が「このお店はあそこをモデルにしているんだろうな」と思わせる舞台がいくつも登場します。その1つが「喫茶白樺」。作中では、かつての人気メニュー『白樺サンド』を、高齢の女主人に代わって、若めの女性が復活させていましたね。
こうした食文化は、伝えていかないといつか消えていくはかなさがあります。でも本書では、世代を超えて連綿と続いていく。感動しました。今後は幼い子供にも何かしらが受け継がれていくのでしょうね。
【プロフィール】
吉川トリコ(よしかわ・とりこ)/1977年生まれ、名古屋在住。2004年「ねむりひめ」で「女による女のためのR-18文学賞」第3回大賞および読者賞を受賞しデビュー。著書に『マリー・アントワネットの日記』『余命一年、男をかう』など。
※女性セブン2021年7月22日号