篠原の内股すかしに、副審の1人は「一本」と判定したものの、主審ともう1人の副審が「ドゥイエの有効」と判定。有効1つの差で敗れた篠原は「自分が弱いから負けたんです」とコメント(写真/共同通信社)

篠原の内股すかしに、副審の1人は「一本」と判定したものの、主審ともう1人の副審が「ドゥイエの有効」と判定。有効1つの差で敗れた篠原は「自分が弱いから負けたんです」とコメント(写真/共同通信社)

 現在は主審の他に、ビデオで正確なジャッジを下す「ジュリー」制度が導入されているものの、当時はあくまで人間の目に頼って技をジャッジしていた。青色柔道着の導入には、攻防をわかりやすくすることで、誤審を減らすという狙いがあった。

「国際審判の力量には大きな差がある。白と青に分かれることで、どちらが技を仕掛け、どちらが投げられたのか見やすくなりますよね。残念ながら、最終日の100kg超級決勝、篠原信一さんとダビド・ドゥイエ(フランス)との試合で、主審が篠原さんの巧妙な内股すかしをジャッジできず、世紀の誤審が起きてしまいましたが、カラー柔道着の導入以前と比べて誤審は明らかに減ったと思います」

 現在の国際大会では国際柔道連盟が認定したミズノをはじめ数社の柔道着しか着ることができない。だが、当時は規定が緩く、おかしな柔道着を着る外国人選手もいた。

「襟元が分厚くて、ペットボトルを握っているような感覚になる柔道着の選手や、袖が極端に細い選手など、たくさんいました。背中の部分がつるつるに滑るようになる何かしらの薬品を塗った選手もいました」

 柔道着の着こなしで瀧本がこだわりを持っていたのは帯だ。大きな大会となると、出場選手には記念品として黒帯が贈られることが多い。それを着用して出場する選手もいるが、瀧本は長年、使い続けた帯でシドニーの畳にも上がろうとした。

「ところが1回戦後、その帯があまりに使い古されていて、黒か白かわからないから変えろと言われまして(笑)。それで前日、試合を終えていた中村兼三さん(現・全日本男子強化副委員長)に帯を借りて出場し続けました」

 見事、金メダリストとなった瀧本だが、帯だけは白黒はっきりしなかったようだ。
(文中敬称略)

取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)

※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号

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