〈故意に恋する〉故意恋といったギミックを「語呂と直観」で盛り込み、「それを逆にどう生かすかを考えるタイプ」という五十嵐氏は、顔面偏差値アプリ「ルックスコア」に違和感を抱く人々にも、〈異なる価値観を許せない人は一定数いる〉と、あくまでフラットだ。
「僕自身はそういったサイトやアプリを選択肢の一つにするのはアリだと思うし、自由恋愛と言いつつ不自由な恋愛をしている人もいるかもしれない。傘の形が昔と変わらないように、いくら技術が進んでも変わらないのが出会いなのかなあと。
ただ技術的には遠くない未来に実現できるアプリのような気がしていて、そうなれば社会は相当変わると思う。今は主観だから逃げ道も多少ある。それでも苦しんでる人は大勢いて、この世界の延長線上で何が起きるかを僕自身が書きながら考え、その過程が何かしら読んだ人のきっかけや問題提起になればいいなと」
とにかく読んで「過程」を体験するしかないほど、斬新な発想と物語への愛に本書は溢れ、自由には責任もまた伴うこの酷薄で理不尽な世界をどう生きるかは、私たち読者に託された。
【プロフィール】
五十嵐律人(いがらし・りつと)/1990年岩手県盛岡市生まれ。東北大学法学部卒。司法試験合格後も裁判所で働きながら執筆を続け、2020年『法廷遊戯』で第62回メフィスト賞を受賞。現在はベリーベスト法律事務所に勤務(第一東京弁護士会所属)。「弁護士業務と作家活動のバランスを模索しながら、二足の草鞋を履きこなせるようになりたいです」。ここ1年で『法廷遊戯』、『不可逆少年』、本書と驚異のハイペース。「1つ終わらないと次が出ない体質なので、今後は全くの未定です」。173cm、58kg、A型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号