そう。彼がその廃病院でフリーランニングを強行し、動画に撮った上で屋上から転落したこと。その人物が容姿を理由に陰湿ないじめを受け、写真部に居場所を求めた琢也であることを、読者は早々に知る。そして同じく写真部の憂や、顔面偏差値的にほぼ完璧な沙耶ですら標的にされかねない校内の空気や、終息したかに見せて次なる宿主を探す伝染のからくりについても、想護の同僚〈椎崎〉と共に事情を探る探偵役の紡季を通じて聞かされるのだ。

 椎崎によれば〈いじめは行動ではなく評価〉であり、いじめと認定される行動は幅広いだけにセクハラ同様、受け手の評価が重要とか。また、〈いじめられる方にも問題がある〉との論調には正当防衛を例に用い、〈主張自体失当〉と一蹴した。

「法律用語は、言葉の定義自体も、一般常識とは少し違って独特です。例えば、法律上は知らずにやった場合は善意、知っててやったら悪意と判断されます。

 僕が大学で法律の面白さに気付いたのも、高校までに基本的人権などの言葉は学んでも、法理論の数学的な美しさを学べなかったから。法律の面白さを伝えたくて、1作目は書いた部分もある。僕は昔から感情論が苦手で、例えば誰かと口論した時に、泣かした方が悪者にされるのが不思議で。それでも多少成長したのか、最近は感情や常識と法律をどう繋ぐかに関心があって、本作の原自行為もそうです。言葉は一見難しそうだけど、この手の行動は誰でも取っている気がするし、略すとゲンジ物語になるところも、ポイントでした」

ミステリーと法律論は似ている

 本作は、探偵役の紡季が椎崎らの協力を得て真相に迫り、作中作『原因において自由な物語』(原自物語)を完成させる物語であると同時に、「小説の力」や存在意義を問う物語でもある。

 紡季がその事実を小説の形で書くことになったのも、物語が〈過程〉を描く媒体だから。

〈結論だけを伝えたいなら、あんなに膨大な文字を打ち込む必要はない〉。結論に至る過程を辿ることで、見えてくるものがある。

「ミステリー自体そうです。伏線や謎解きもなく真犯人が登場しても、読者は納得しないと思います。その結末に至るのにいかに魅力的な謎や伏線を鏤め、フェアに事を運ぶかという点は、法律論とも似てますよね。

 実は僕自身、司法試験を通じて小説の書き方を体得した部分があって、通常は予め結論を決めてから答案を書き始めるのに対し、僕は答案を書き進めながら結論を探るタイプ。それでも人のやることだし、答えは何かしらあるだろうと」

関連記事

トピックス

結婚生活に終わりを告げた羽生結弦(SNSより)
【全文公開】羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんが地元ローカル番組に生出演 “結婚していた3か間”については口を閉ざすも、再出演は快諾
女性セブン
「二時間だけのバカンス」のMV監督は椎名のパートナー
「ヒカルちゃん、ずりぃよ」宇多田ヒカルと椎名林檎がテレビ初共演 同期デビューでプライベートでも深いつきあいの歌姫2人の交友録
女性セブン
NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン