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2021.07.25 07:00  週刊ポスト

弁護士作家・五十嵐律人氏「ミステリーと法律論は似てますよね」

 そう。彼がその廃病院でフリーランニングを強行し、動画に撮った上で屋上から転落したこと。その人物が容姿を理由に陰湿ないじめを受け、写真部に居場所を求めた琢也であることを、読者は早々に知る。そして同じく写真部の憂や、顔面偏差値的にほぼ完璧な沙耶ですら標的にされかねない校内の空気や、終息したかに見せて次なる宿主を探す伝染のからくりについても、想護の同僚〈椎崎〉と共に事情を探る探偵役の紡季を通じて聞かされるのだ。

 椎崎によれば〈いじめは行動ではなく評価〉であり、いじめと認定される行動は幅広いだけにセクハラ同様、受け手の評価が重要とか。また、〈いじめられる方にも問題がある〉との論調には正当防衛を例に用い、〈主張自体失当〉と一蹴した。

「法律用語は、言葉の定義自体も、一般常識とは少し違って独特です。例えば、法律上は知らずにやった場合は善意、知っててやったら悪意と判断されます。

 僕が大学で法律の面白さに気付いたのも、高校までに基本的人権などの言葉は学んでも、法理論の数学的な美しさを学べなかったから。法律の面白さを伝えたくて、1作目は書いた部分もある。僕は昔から感情論が苦手で、例えば誰かと口論した時に、泣かした方が悪者にされるのが不思議で。それでも多少成長したのか、最近は感情や常識と法律をどう繋ぐかに関心があって、本作の原自行為もそうです。言葉は一見難しそうだけど、この手の行動は誰でも取っている気がするし、略すとゲンジ物語になるところも、ポイントでした」

ミステリーと法律論は似ている

 本作は、探偵役の紡季が椎崎らの協力を得て真相に迫り、作中作『原因において自由な物語』(原自物語)を完成させる物語であると同時に、「小説の力」や存在意義を問う物語でもある。

 紡季がその事実を小説の形で書くことになったのも、物語が〈過程〉を描く媒体だから。

〈結論だけを伝えたいなら、あんなに膨大な文字を打ち込む必要はない〉。結論に至る過程を辿ることで、見えてくるものがある。

「ミステリー自体そうです。伏線や謎解きもなく真犯人が登場しても、読者は納得しないと思います。その結末に至るのにいかに魅力的な謎や伏線を鏤め、フェアに事を運ぶかという点は、法律論とも似てますよね。

 実は僕自身、司法試験を通じて小説の書き方を体得した部分があって、通常は予め結論を決めてから答案を書き始めるのに対し、僕は答案を書き進めながら結論を探るタイプ。それでも人のやることだし、答えは何かしらあるだろうと」

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