新型コロナワクチンの「2回目」接種を終えたからといって、「もう大丈夫」と安心してはいけない。コロナ禍で医療機関から足が遠くなっているうちに、病気を治すはずの薬が身体を蝕むリスクになっているかもしれない。
高齢化が進む日本では病院で複数の科にかかることも多いため、“薬漬け”が指摘されていた。厚労省の調査(2020年)では65~74歳の15%が7つ以上の薬を処方され、75歳以上では26%となっている。そうした状況で「受診控え」が生じると、医師の診断や助言が十分に得られないなかで、一度に長期間の薬を処方される。体調の変化などを考慮せずに同量の薬を飲み続ければ、多剤併用によるリスクも増していく。
そこで参考になるのが、日本老年医学会などが2015年に発表した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」だ。この中では「高齢者で特に慎重な投与を要する薬物リスト」が掲載されている。このリストを一般向けに改めて公開するパンフレット「高齢者が気を付けたい多すぎる薬と副作用」の製作に携わった、日本老年薬学会評議員でたかせクリニックの高瀬義昌医師が語る。
「多剤処方による高齢者の副作用に対して、現場の危機感が高まったことが作成のきっかけでした」
リストのなかで最も種類が多いのが糖尿病薬だ。なかでも糖尿病患者に最も多く使われるアベマイド、ジメリン、オイグルコンなどの「スルホニル尿素(SU)薬」について、ナビタスクリニック川崎の内科医・谷本哲也医師はこう注意を促す。
「SU薬は膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促し、血糖値をコントロールする薬です。しかし腎機能が落ちた高齢者が服用すると、薬効が増幅して血糖値が下がりすぎ、低血糖になる恐れがあります。低血糖の症状によって転倒し、骨折したり、頭を打って脳出血を起こすリスクも指摘されている」
糖尿病薬のうちアクトスなど「チアゾリジン薬」は骨粗鬆症を招きやすいと記載されている。
近年処方が増えたスーグラやフォシーガなど「SGLT2阻害薬」は、とりわけ今の時期は注意を要するという。
「比較的新しく、低血糖になりにくい薬ですが、尿糖の排泄を増やすため高齢者は脱水になりやく、熱中症のリスクが高い夏場は特に注意が必要です。脱水で血液がドロドロになった場合、動脈硬化のある高齢者は脳梗塞を起こす恐れもあるからです」(同前)
国内に1000万人以上の患者がいて“国民病”とも呼ばれる高血圧。その治療薬として使われる利尿薬では、ラシックスなどの「ループ利尿薬」もリストにある。銀座薬局の代表薬剤師・長澤育弘氏が語る。
「利尿薬のなかでも効き目が強い薬で、急激に血圧が下がって起立性低血圧になったり、めまいを起こして転倒する危険があります」